昨日に引き続き、ETC高速道路一日1000円乗り放題に絡む話題について取り上げます。今日は高速バスの話題です。

ETC高速道路一日1000円乗り放題(以下、単に高速乗り放題と記します)により、悪影響を受ける機関として忘れてはならないのは高速バスです。確かに鉄道も乗客の減少という痛手を被りますし、その対抗策として西日本パスこだま指定席往復切符といった企画きっぷで対抗しているのが現状です。
一方高速バスも、乗客のマイカーへの転移による乗客減となるのは鉄道と同様ですが、それだけでなく、高速道路の混雑による渋滞の影響をも受けてしまう、ダブルパンチの状況となってしまいます。
特にこの前のゴールデンウィークは、各地で大渋滞が発生し、関西地区でも神戸淡路鳴門自動車道で80kmの渋滞が発生していました。この区間は、京阪神〜高松・徳島方面の高速バスが走るルートでもあり、この路線では軒並み長時間の遅れが発生していたと思われます。

勿論、通常の帰省ラッシュ・Uターンの時期なら、季節的なものがあることと、この時期は高速バス自体の利用者も多いこともあり(需要が分散される)さほどどうということもなかったのですが、今回の高速乗り放題は普通乗用車等に的が絞られた制度であるため、その枠外である高速バスは利益を得られることはなく、逆に「もともと高速バスに乗るはずだった乗客までもがマイカーに移転する」ことによる損失、「渋滞による各種コストの増加」、そして何より、「利用客の定時性に対する信頼性の低下」という目に見えないけれども、中長期的には痛すぎる損失を被るという、何と言いましょうか、パンチばかり受けるサンドバック状態に陥っているともいえます。

そんな高速バス業界を代表してか、西日本鉄道の社長(西日本鉄道自体、バス事業・そして高速バス事業を代表する、有数の大規模事業者です)が記者会見で怒り心頭で、高速乗り放題施策の批判を行っているというニュースがありました。

西鉄社長 1000円高速に怒り バス乗客減、4時間遅れも(Yahoo!ニュース、元記事:西日本新聞)

上記記事によると、ゴールデンウィークの期間中に乗客数は12%減、九州地区の中では20%減の事業者もあったようです。更に、遅延に関しては、福岡〜鹿児島線で通常4時間の所要時間が倍の8時間と、遅延が4時間も発生したケースもあったとのことで、社長曰く「尋常でない遅延」とのことですが、まさにその通りともいえます。

これだけ渋滞が発生すると、環境問題に対する懸念も発生するわけでして、西鉄社長も「環境問題の観点からも、おかしいのではないか」というのも当然ともいえます。
西鉄社長を会長とする九州バス協会は、国土交通省に対して高速乗り放題をお盆の時期も現在の土日以外に拡大しないように要望する旨も、記事中に記されています。仮にお盆の時期の1週間丸々高速乗り放題が可能となると、9日間乗り放題の期間が続くこととなり、高速バス業界の受ける影響は相当なものと考えられます。

そもそもこの高速乗り放題制度ですが、未曾有の不景気に対する政府の景気対策の一環として実施されましたが、その割には景気対策の波及効果がどれほど大きいのか、というのを真剣に議論していくと、さほど波及しているのかいな?という印象も感じます。

高速乗り放題にすることによって、新たに移動需要が発生している面もありますが、上記の高速バスやJRの中・長距離列車の利用者減少のように、単に需要がシフトしているだけという側面もあります。
更に問題なのは、方や高速は国費補助で減収分が補填されるのに、バス・鉄道は減少分の補填がなされていないという、イコールな条件とはとても言い難い状況ということです。もちろん、社会主義でもないので、完全イコールな条件というのは無理ですが、ある程度の影響分を加味した政策の組み合わせというのは考慮すべきだったと思います。
それができなかったのは、ひとえに現政権が早期に景気対策を打ち出すことをアピールしたかっただけ、と思われても仕方がないと思われます

先日、経済学者のクルーグマン博士が、景気対策として定額給付金の政策は0点という辛辣な評価をなされていました。
個人的には、定額給付金は、まだ様々な産業に広く行き渡る(但しクルーグマン博士も指摘しているとおり、給付金が貯蓄にまわる分もあり、短期的にはさほど刺激されない面もあるので、決して高い評価を出すことはできない政策とは思いますが)こともあり、高速乗り放題に比べるとまだまし、と思えます。
そうすると、上記の問題を考慮し、クルーグマン博士の言葉を借りるならば、「高速乗り放題政策は景気対策にマイナス点」と思わざるを得ません。

この問題で、もう一つ取り上げたい論点は、高速バス事業が、各バス事業者にとって一般路線バスを支える収益の糧、といった側面を持っている点です。
ここでは西鉄のように定期運行を行っている高速バス路線を有してる事業者を考えていて、いわゆる「ツアーバス」は対象外としていますが、そのようなバス事業者は同時に地元の路線バスの路線(ここでは一般路線バスとしておきます)も有しています。これらの一般路線バスは慢性的に赤字、あるいは低い収益しか生み出せない反面、地域の公共交通体系の維持に大きな役割を果たしているのは事実です。
勿論、これらの公共交通体系の維持には公的支援も欠かせませんが、運行を行うバス事業者自体が企業体として存続するためには、何かしらの収益を生み出す事業を行う必要があるわけで、高速バス、特に九州の場合では各都市間を結ぶ高速バスは、需要の多い市場でなおかつ単価の高い乗客を何度も運べることのできる、一般路線バスに比べるとずっと高い収益を生み出す事業となっています。
そういう収益の糧が奪われることは、その影響は高速バスだけに止まらず、一般路線バスにも波及してくることは、上で記したバス事業者の収益構造をみると明らかです。
そうなると、地域の公共交通体系の更なる崩壊が進まないとは、誰が断言できるでしょうか?
実はそういう危機的な状況も考慮しないといけないくらい、このことは背後に大問題をはらんでいるとも思われます。

ただ、「高速道路一日1000円乗り放題」も「地方公共交通の維持」も、実は同じ国土交通省の問題でして、ここのあたりの調整が、行政サイド、とくに同じ省庁で調整し、トータルとしてベターな制度は出来なかったのかいな?と思います。

今日のエントリーはいつもに比べてかなり長いものとなりました。
これだけ長いエントリーは関西三空港関連以外ではあまり書いた覚えがないのですが、丁度いま勉強している観点からのアプローチもできたりするので、丁度自分の考えをまとめてみる良い機会かなとおもって、敢えて長文でエントリーさせて頂きました。長文失礼いたしました。

西鉄社長 1000円高速に怒り バス乗客減、4時間遅れも

 西日本鉄道(福岡市)の竹島和幸社長は26日の定例会見で、自動料金収受システム(ETC)利用による高速道路料金割引について言及。大型連休中に九州の高速バス乗客数が約12%減少したうえ、渋滞により到着が4時間以上遅れる便もあったとして、怒りをにじませながら「1000円高速」施策を批判した。

 国土交通省がお盆期間など平日の割引実施を検討していることに対し、現行の土日祝日以外への適用拡充をしないよう、九州の82社が加盟する九州バス協会会長として、同省に要請していることも明らかにした。

 竹島社長によると、西鉄高速バスの4月24‐5月6日の乗客数と収入を前年と比較したところ、乗客は約3万6000人、収入は約5400万円減った。また福岡‐鹿児島線では、渋滞に巻き込まれ、通常の倍となる8時間以上かかった便もあった。「尋常でない遅延で、こういう状況が続けば客離れにつながる」と強い危機感を示した。

 九州の他のバス事業者も同様で、乗客が平均12.3%減少。中には20%を超す減少率だったところもあったという。

 お盆のほか正月期間の割引適用拡大については「(西鉄の)減収が2億円くらいになるのではないか。赤字路線は見直しを考えざるをえないかもしれない」と指摘。「環境問題の観点からも、おかしいのではないか」と不満をあらわにした。

 高速バス対象の割引もあるものの「十分ではない」として、九州のバス業界を代表して22日、国交省に(1)上限1000円施策の拡充防止(2)高速道渋滞緩和策の検討(3)バス事業に対する支援措置‐を求める要請書を提出。6月中に具体的な改善策を提示する考えを示した。

平成21年5月27日 西日本新聞
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/98228