大阪府堺市では、諸々の社会動向を踏まえながら、都心の将来像とその中でのライフスタイルと高越についての方向性を示すため、新たな交通システム基本方針「堺・モビリティ・イノベーション-SMIプロジェクト-」の素案を公表しました。

堺・モビリティ・イノベーション −SMIプロジェクト−|東西交通 堺市

概要は以下のとおりです。

【プロジェクトの方向性】
「Sustainable」「Resilient」「Carbon-neutral」の視点を踏まえ、以下の方向性で取り組む。
(1)時代とともに進化する次世代都市交通(ART)<SMI 都心ライン>
(2)歴史と未来が融合した「堺」を象徴する交通拠点・拠点間ネットワーク<SMI 美原ライン>
(3)都心のモビリティショーケース化
(4)モビリティの脱炭素化
(5)都市をまるごとサービスする”City as a Service”の推進
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▲上記Webページ内発表資料(https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/toshi/touzaikoutu/index.files/kihonnhoushin_soann210810.pdf)より引用)

【都心の将来像と交通】(主なもの)
○都心交通の方向性
・公共交通軸の強化:
堺駅〜堺東駅間に最新技術を活用したARTの導入(SMI都心ライン)や阪堺線の活性化など、公共交通の軸の強化
阪堺線とARTの乗継利便性向上

○広域ネットワークに関する方向性
・住民の移動活性化を図るため、東西交通の機能を強化
拠点ネットワークの構築をめざし、定時制や速達性を向上させたBRTの導入(SMI美原ライン)など、ニーズに応じた路線の構築に見受けて、実証実験等を段階的に実施
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▲上記Webページ内発表資料(https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/toshi/touzaikoutu/index.files/kihonnhoushin_soann210810.pdf)より引用)

【「堺・モビリティ・イノベーション」のイメージ】
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▲上記Webページ内発表資料(https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/toshi/touzaikoutu/index.files/kihonnhoushin_soann210810.pdf)より引用)

【スケジュール・推進方策・推進体制】
・ART(SMI都心ライン)については、導入準備ART1.0の運行開始、その後技術革新党に対応し進化させる
・BRT(SMI美原ライン)は、2022年度から先行的な実証実験等を実施
・いずれも、2030年度に向けての実現を目指すスケジュール
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▲上記Webページ内発表資料(https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/toshi/touzaikoutu/index.files/kihonnhoushin_soann210810.pdf)より引用)

【SMI美原ライン】
○目的
・都心エリアと美原区を1本の交通機関で結ぶことで、東西方向の拠点間ネットワークの強化、人の流れを活性化させることで賑わいを創出。
・美原都市拠点の交通結節機能により、美原区と南河内の隣接し(松原市、羽曳野市、富田林市、大阪狭山市)とのつながりを強化。
・SMI美原ラインを活用し、南河内地域から関西空港や国土軸へのアクセス性を向上。
・国道309号や大阪中央環状線の道路混雑の緩和に寄与し、脱炭素化を促進

○イメージ
・高い環境性能(脱炭素化)とシンボル製を誇る車両・停留施設
(電動化等の車両、統一デザインの停留所等)
・定時制・速達性の高い交通システム
(優先・専用レーン等による定時制・速達性の向上)
・停留所での運行情報や車内での乗換案内の提供
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▲(上記Webページ内発表資料(https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/toshi/touzaikoutu/index.files/miharaline_210810.pdf)より引用)


詳細は、上記発表資料をご覧下さい。



大阪府堺市には、南海電鉄本線、同高野線、阪堺電軌軌道阪堺線、泉北高速鉄道、JR阪和線、地下鉄御堂筋線といった鉄軌道が運行されています。
これらはいずれも、市内を南北に走る路線となっており、こと南北の移動にはそれなりに利便性が確保されています。

一方、東西の交通に関して言えば、現在のところ路線バスのみとなっており、鉄軌道等の速達性が確保された公共交通機関が整備されていないという現状です。


勿論当の堺市でもその問題点は過去から認識しており、市内を東西に連絡する鉄軌道等の公共交通機関を整備する計画は、これまでにも検討されてきました。

直近では、南海本線・堺駅前と南海高野線・堺東駅前を結ぶ「大小路」にLRTを敷設する計画もあり、具体的な検討も行われてはきました。
しかし、このLRT導入の可否が争点ともなった当時の堺市長選挙で、導入反対の市長が当選したことからこのLRT計画は中止となりました。



その後阪堺線の利用促進等といった施策が実施され、一定の効果は得られたものの、依然として市内を東西に結ぶ公共交通機関の整備は進んでいない状況であります。


加えて、堺市では2005年に南河内郡美原町と合併し、翌2006年には政令指定都市に移行し、堺・中・東・西・南・北・美原の7区政が敷かれました。
このうち美原区については、かつては「南河内郡」に属していたことから分かるように、南海高野線沿線(初芝、北野田)の他、近鉄線沿線(河内松原、恵我ノ荘、貴志)の各駅へのバス路線も設定されているといった位置関係となっています。

そのため、堺市中心部(堺東駅前、堺駅前)へのアクセスが、他の地域に比べると弱いといった点もあり、この点も同町を合併して15年が過ぎましたが、未だ残り続けている課題といえます。


今回の「堺・モビリティ・イノベーション」では、こういった「東西公共交通の整備」「美原区と都心を結ぶ公共交通機関の整備」といった課題を解決する手段として、前者には「ART」、後者には「BRT」の導入を進めていくのが、計画の目玉となっています。



【SMI美原ライン(BRT)】
まず後者、即ちBRTとして整備する「SMI美原ライン」について、見ていきたいと思います。
これは、大阪中央環状線を経由し、堺市内中心部から美原区役所を結ぶ路線を設け、専用レーンや停留所整備を実施してくものとされています。
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▲SMI美原ラインのルート構想図
(上記Webページ内発表資料(https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/toshi/touzaikoutu/index.files/miharaline_210810.pdf)より引用)

▲堺東駅前〜美原区役所の想定ルート。
大阪中央環状線〜国道309号線を経由するルートが想定されます。

大阪中央環状線、国道309号ともに交通量の多いルートで、特に大阪中央環状線では車線も多く設けられており、一見専用レーンの設置等も比較的行いやすいのかも知れません。
ただ既存の交通量をどれだけ抑制できるかを示せるかが、専用レーン設置へのハードルになるかと思われます。

一方で、この「美原ライン」の沿線は、既存の鉄軌道へのアクセスが難しい地域でもあり、市内の他地区に比べると自動車への依存が高い傾向があると考えられます。
こういったところにBRTで速達性・定時制が確保された公共交通機関が整備されることで、自動車からの移転も一定程度見込めるのかな、とも思われますので、そういった住民ニーズも汲み取りながら、計画が実現していくことを期待したいと思っています。

投入される車両としてトヨタの燃料電池バス「SORA」の画像が使用されています。
BRTと称される路線整備では、大量輸送の観点から連節バスの導入も併せて検討されることも多い中、この美原ラインでは、環境性能に優れた車両を投入することが示されています。
実際にこういった車両が投入されれば、国内でも決して多くない事例となるだけに、これまた注目を集めるのではないか、とも思われます。

ともあれ、これまで堺市に合併されたとはいえ、歴史的・位置的な関係から既存の堺市エリアとの繋がりがいまいち強くなかった美原区において、こういた公共交通機関の整備により、堺市中心部との繋がりを強め、一体として市の発展に寄与できればいいな、とも思っています。



【SMI都心ライン(ART)】
続いて、もう一つのポイントである「SMI都心ライン」を見ていきたいと思います。
これは先にも述べたように、南海高野線堺東駅前と南海本線堺駅前の間のメインストリートである「大小路」を経由して堺市の都心部を結ぶ路線の計画であります。


この両駅間では、現在南海バスが「堺シャトルバス」を運行しています。
この「堺シャトルバス」、1987年(昭和62年)に他路線と比べて高級なシートを設置した専用車両を投入し、かつ頻繁に運行するダイヤを設定することで、好評を得て、その後車両についてはこのシャトルバス専用車両が引き続き投入されています。
現在の車両は3代目となっていますが、金色をベースとした塗装を施しており、より注目を集めるデザインとなっているのが特徴であります。


さて、今回「SMI都心ライン」として提示されている計画では、「ART」という手段が示されています。
この「ART」、聞き慣れない言葉ですが、堺市の発表資料による「用語解説」では、
Advanced Rapid Transit」の略。自動走行技術の活用などにより、従来の公共交通に比べて、すべての人が安全・快適に移動できるもの。
(出典:上記Webページ内発表資料(https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/toshi/touzaikoutu/index.files/kihonnhoushin_soann210810.pdf))

と記されています。

どうやら既存のバスに比べると、自動走行が可能なものであることを考えている模様ですが、それに加えて複数の車両を1名のドライバーで運転できる「隊列走行」が可能であったり、プラットフォームにすき間・段差なく到着できる「正着制御」を備えるといったことも考えられているようです。

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▲SMI都心ラインへの導入が計画されているARTのイメージ
(上記Webページ内発表資料(https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/toshi/touzaikoutu/index.files/kihonnhoushin_soann210810.pdf)より引用)


そして、阪堺線と接続する「大小路」では、乗継利便性の向上を図るべく、阪堺線とSMI都心ラインの両方の停留所が交差点内に設けられるイメージが示されています。
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▲大小路交差点でのSMI都心ライン・阪堺線の乗継利便性向上イメージ
(上記Webページ内発表資料(https://www.city.sakai.lg.jp/shisei/toshi/touzaikoutu/index.files/kihonnhoushin_soann210810.pdf)より引用))


ここまで書いてみて、「阪堺線の乗継利便性向上」や「隊列走行」「隙間・段差のない乗降」を実現するというのは、LRTでも実現できるのでは?という疑問が湧いてきたりもします。
加えてLRTであれば、堺東駅前・堺駅前〜浜寺方面・環濠北部への直通運転も可能となりますので、実現可能性が未知数の自動運転・隊列走行に期待するよりも、これらを実現するためには、LRTを敷設するのが、何だか現実的なような気もします。


ただ、大小路へのLRT建設は、上述のとおり「市長選挙で反対派が当選」したという(あくまで当時の)「民意」が示されてしまっている以上、いくら合理性があるとはいっても、(10年以上経過しているとはいえ、)再び計画として提示することは、非常にハードルが高くなってしまっている、といえるでしょう。

このような計画で「適材適所」とも考えられるLRTが選択肢ですら提示されないのは、ある意味勿体ない話ではありますが、ともあれ、繰り返しでありますが過去に「民意」として「LRT拒否」が示された以上、これは一個人がああだこうだ言ったとしても仕方のない話でしかないのかな、とも思えます。


今回提示された「SMI都心ライン」としてのART導入が、今後どのように進められていくのか、また、技術的に検討・実証事項の多いARTの実現をどのように進めていくのか。
上述の「SMI美原ライン」以上に実現のハードルが高い「SMI都心ライン」でありますが、堺市内の中心地の活性化のキーとなる施策であると考えられますので、今後の計画の進捗をしっかりチェックしていきたいと思っています。



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