しばらく飛びましたが、その1その2と続いてた泉北高速鉄道の運賃についてのエントリーですが、今回は3回目。

ここでの論点は、「泉ヶ丘からなんばまで520円かかるのは、他に比べて高いんとちゃう?」という点です。
前回のエントリーでもちょこっと記しましたが、これは泉北高速鉄道と南海電鉄の2社にまたがるからだ、と書きました。2社にまたがるので、両社を別々に計算することとなり(但し普通運賃の場合は20円の乗り継ぎ割引があります)、距離で比較すると他の路線よりも高くなってしまうわけです。
南海・泉北いずれも運賃の水準は無茶苦茶高いわけではないのですが、これらを別々に支払う形となるので、単純に改札を出てまたきっぷを買うのとあまり変わらない総額運賃になることが、割高感を持たれる一因とも言えるかも知れません。

「でも泉ヶ丘の駅で待っていたらNANKAIと書いてる電車が来るし、なんば駅にはSEMBOKUと書いたクマみたいな絵の描かれた電車が止まっているし、一緒の線なんちゃうの?何で別の会社とかややこしいことすんの?」と愚痴の一つや二つくらい言いたくなる人もいらっしゃるかも知れません。

こうなると、泉北高速鉄道線がなぜ「南海電鉄泉北線」としてではなく、「泉北高速鉄道線」として建設・運営されるようになったのかについて考える必要があります。

Wikipediaの該当項目には、「かつて南海により直接経営が検討されたが、1960年代後半から1970年頃にかけて重大事故が頻発し、重い負債がのしかかり新規路線を持つことを断念した」とあります。
また、鉄道ピクトリアルの2008年8月号の「泉北高速鉄道の現況」では、「大阪府では、この鉄道が・・・ニュータウンの建設に合わせて早急に建設する必要があること、先行投資の負担が大きいことなどを検討の上・・・当社(大阪府都市開発)に対し、新線の建設および経営の引受けの申入れをした」とあります。

こういった事情により、南海単独ではなく第三セクター鉄道として建設・運営されたという経緯があるようですし、歴史的経緯はそれはそれで仕方がないと受容するしかないとは考えます。勿論、当時の泉北線建設の運営に関わった関係者に反省の弁はないのか、と反省を強いることもできないとは限らないのですが、それで泉北線が南海直営になる訳でもないですし、ましてや運賃が安くなるとも到底思えないですし・・・

では、この泉北から南海の運賃がどの程度の水準か、これまたグラフにしていきたいと思います。
まずは、関西の同じ相互直通を行っているケースと比較しますが、注意しなければならないのは、いずれの会社も相互直通する距離は異なっています。これをなるべく同じ水準で比較したいわけですので、どこかの距離を統一しておかなければなりません。
ここでは、泉北高速の泉ヶ丘〜中もず7.8kmを基準に、泉北高速に対応すると判断した会社の距離を8kmとし、南海に対応すると思われる会社の距離をそこから加算して合計の運賃とします。ただし、路線長が8kmもない北急は、6km以降は大阪市交への乗り継ぎとしています。そのため、北急から大阪市交への相互直通は、他に比べて高い水準となっていることを、あらかじめご了承下さい。なお、泉北・南海の乗り継ぎ割引・近鉄けいはんな線の加算運賃等も含めて計算しています。
泉北→南海の場合、泉北の乗車を8km、それ以降を南海とした場合の合計運賃です。同様に、「北急→大阪市交」は北大阪急行に6km乗車し、それ以降を大阪市交の運賃表、以下同様にしています。

相直運賃比較
このように、相互直通運転を通しで購入した場合の運賃でも、泉北高速と南海との相互直通がとりわけ高いという訳ではありません。むしろ他の相互直通のケースの方が、距離相応で高くなることも多くなります。決して「高すぎる」訳でもなさそうです。

ただ、こういう比較を行うと、ある疑問ないしは質問が生まれてくるかも知れません。
「確かに他の相互直通のケースよりも高くはないけど、他の相互直通に比べて泉北・南海の場合は、都心へ出るのに必ず2社にまたがらんとあかんから、やっぱり高いのとは違うのとちゃいますか?」

確かにその通りといえるでしょう。例えば近鉄けいはんな線の場合は(生駒以東を除き)並行する近鉄奈良線を利用することが可能です。もっともこれが、奈良線の混雑緩和で建設された東大阪線(現けいはんな線)へのシフトが進まない原因でもありますが・・・
また、近鉄京都線から京都市営地下鉄へ、阪急から地下鉄堺筋線への相互直通は、元々地下鉄区間を利用する前提で当該路線を経由しているのであれば、どこかで乗り替える必要があるので、これを敢えて高いと感じることもまず無いでしょう。

一方泉北高速・南海の場合、泉北高速の区間が中もずまで、中もずからは必ず他の鉄道社局(南海電鉄か大阪市交通局)を利用する必要がある、即ち都心に入るまでに初乗り運賃を2回必ず支払う必要がある点が、割高感の原因というのは相違ないでしょう。
さらに、同様に「都心に入るまでに2社利用が前提」となるケースが、泉北・南海の他は大阪府内では北急・大阪市交というケースくらいしか無い点も、更に泉北・南海の割高感を助長する結果になるのかな、と思います。
ちなみに能勢電鉄から阪急への相互直通も高いレベルですが、これは特急「日生エクスプレス」を除いて川西能勢口での乗り換えがあるので、相互直通の例外ケースと言っても良いのかも知れません。

前回までの話も含めて、一応ここまでのおさらいをしておきます。
・泉北高速鉄道単体としては、距離相応の運賃であり、高くない。
・しかし、大阪市内・堺市内中心部まで乗車する場合には、「必ず」2社分の運賃を支払う必要がある。
・つまり、「泉北高速が高い」のではなく、「2つの会社にのる必要があるので高くなる」のが正解に近い。
・誤解が生じるのは、高野線・泉北線が一体として運行されているため、運賃レベル以外は他の民鉄各路線と同様に比較できてしまうためと考えられる。


さて、この一連の記事は、3回分で終わらすつもりでしたが、もう1回追加して終わりにしたいと思います。
最後のネタは、以前のエントリーで述べたとおり、泉北高速鉄道の民営化(大阪府保有分の株式売却)が検討されています。また、先日の新聞記事では、堺市・和泉市が大阪府に対して泉北高速鉄道の運賃水準の値下げ等を要望している記事も目にしました。

最終回は、これらの動きを含めて、泉北高速鉄道民営化による運賃体系の変更の可能性や、今後の泉北・南海相互直通における運賃体系のあり方等、どちらかと言えば現在ではなく将来のことや妄想・勝手な予想や個人的な希望を中心に述べていきたいと思います。

その4へ続きます)

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