その1、その2、その3と続いてきた泉北高速鉄道の運賃についてあれこれ考えてみるエントリーですが、ようやく最終回までにたどり着きました。
全4回、ということは「起承転結」という論理展開がスマートだ、というのは作文や小論文の添削でもよく言われますが、これをこのシリーズに当てはめると、「起・承・承・承」となってしまうような気もしないでもないですが・・・
前回の終わりでは、泉北高速の民営化による運賃体系の変化や、今後の理想論について今回は述べたいと記しました。
まず「泉北高速の民営化」とは言いますが、泉北高速鉄道を運営する大阪府都市開発株式会社の株主は大阪府を含めた企業等となっています。
基礎的な知識としてですが、「大阪府都市開発株式会社」は、泉北高速鉄道だけでなく、トラックターミナルの運営等の事業を行っています。
大阪府都市開発株式会社Webページ
今回の株式売却案では、大阪府都市開発を事業ごとに分割し、各事業の大阪府の株式持分を売却しよう、ということのようです。
トラックターミナル事業等は、今回の話の対象ではないので割愛し、ここから先は単純に「大阪府都市開発株式会社 泉北高速鉄道事業」のことについて書いていきたいと思います。
今回の民営化では、大阪府が保有する株式を売却するだけで、他株主所有分の株式がどうなるのか、特に言及がありません。仮に、大阪府以外が保有する株式も含めて100%を売却というのなら、100%子会社化、そして親会社と合併ということは十分あり得るでしょう。親会社が南海電鉄でここまでたどり着くと、同じ運賃体系が適用される可能性は決して低くないと思われます。
逆に大阪府以外の株主が引き続き株式を保有するとなれば、現・泉北高速鉄道と南海電鉄とは別法人のまま存続する可能性は高いと考えられます。勿論、他の株主と調整の上、合併することも可能でしょうが、その調整が簡単に進めることができるかどうかも分かりません。別法人のままだと、「割高と誤解される」2社間をまたがる運賃体系は引き続き維持されることになります。
もっとも、例えば南海が主要株主となることで、南海・泉北間の乗り継ぎ割引を拡充するとなればまた違う話になるのでしょうが、親会社と子会社との間で、大幅な運賃割引が実施されている例はあまり聞いたこともなく、あまり現実味はありません。
次の表では、現行の「泉北+南海」の運賃と、泉北高速の区間も南海の運賃に統合された場合の泉ヶ丘からの運賃表を掲載しています。

泉ヶ丘〜なんば間で90円の値下げとなります。確かにここまで来ると「日本一高い」という誤解はかなり減るのかな、とは思います。
逆に、「たったその程度の値下げなん?」と思われるかたもいらっしゃるかも知れませんね。半額くらいの予想をしていたらそうでもない。これは結局泉北高速線の距離が実はかなり長いということにもなるのでしょう。
さて、上記で「同じ運賃体系が適用される可能性は決して低くない」と、表現をしました。はっきり「可能性が高い」と言い切っていないのは、それなりの理由がありまして、「別法人で支線となるニュータウン線を建設」→「本線の会社に吸収」のケースで、運賃体系は、吸収前つまり別体系のまま存続したという事例があるからです。
その事例は、元・千葉急行電鉄線、現在の京成千原線です。
千原線は、元々京成電鉄や自治体等が出資する第三セクター鉄道「千葉急行電鉄」が運営する鉄道路線でしたが、沿線ニュータウンの人口が伸び悩みや、並行するJR線への乗客流出で開業早々債務超過に陥り、開業後わずか6年で会社は精算、路線は京成電鉄に譲渡されました。
その千原線の運賃は、千葉中央駅で接続する京成千葉線とは別体系となっており、千葉線と通しで乗車する場合でも初乗り運賃を2回支払うことになります。但し一部区間には割引があるようです。
参考:京成電鉄Webページ内運賃表(PDFファイル)
勿論、「人口が増加せず債務超過で陥ったものを引き継いだ路線」(千原線)と「成熟したニュータウンで安定的な収益を生み出せる路線」(泉北高速鉄道)とは事情が違うというのは十分承知ですが、ここでは、「同一会社となって区間が連続したからと言って、運賃体系を統合しなければならない『わけではない』」という例を紹介しておくために取り上げました。
もっとも、合併したとしても、コスト面では高野線との運営統合が出来ない限りは運賃体系の統合は難しいわけであり、泉北高速鉄道民営化で運賃値下げ、と短絡的に考える人も多いような気もしますが、そうなるには高いハードルがあるのかな、とも思えます。
では、泉北高速鉄道線が同一法人となるにしろ、別法人となるにしろ、運賃体系の再構築が不必要かというと、そういう訳では決して無く、例えば堺市内の交通体系を考える場合、泉北高速鉄道沿線の南区と中心部を結ぶこの路線が利用しやすいような運賃体系とすることで、南区・中心地間の堺市内の公共交通利用者の増加や、ひいては両エリアの活性化につなげることも考えられなくはないと思います。
こうなると、もう鉄道事業者単体だけでなく、堺市役所が市内全体の公共交通機関をどう考えて、どれだけの投資や支援ができるか、という議論になるかと思います。
今堺市ではLRT計画が進められていますが、計画までは出てきているものの、それから先が進まないのはこのブログの堺市LRT関連記事をご覧になればお分かりいただけるかと思います。
ただ、LRTだけでなく、と書くとLRT反対論の入り口に立っていると誤解されかねなので少し言い方を変えて、LRTに加え既存の鉄道を含めて利用しやすい運賃体系を構築し、運賃収入を上回るいわゆる赤字分は堺市が公的支援をする、というやり方もありかな、と思います。
南海・泉北・阪和線ともにICカード乗車券での乗車が可能ですので、堺市民専用のICカードを発行し、堺市内相互間の利用は一定金額を上限とする運賃体系(例えば1回の乗車で上限250円など)とし、不足分をICカードの利用状況から算出して堺市から各鉄道事業者に補助、というやり方も可能といえば可能でしょう。これに堺市LRTも含めることも勿論できるでしょうし、更に言えば南海バスも含めて、市内の鉄道・バスを低負担で利用できるといった、ヨーロッパの各都市で実際に行われている仕組みを堺市でも実現できるのではないか、と思います。
先日の新聞記事では堺市・和泉市が大阪府に対して泉北高速鉄道民営化に際する要望を提出していました。ただ、長期的には堺市自身が市内の公共交通をどう体系立てて行くのか、という長期的・広範な視野を持って政策の策定をしていく必要があると思います。
このシリーズもようやく最終回、そしてその最終回を無事終われるところまでたどり着きました。
読者の皆様には「そんなん興味ないよ」とお思いの方も少なからずおられるかも知れませんが、「その1」のエントリーでも述べたように、「泉北高速鉄道が(日本一)高い」ということに対する反論を行い、尚かつそのワンフレーズでは片付けられない問題点については、いつかまとめて述べることで、泉北高速鉄道の運賃体系をきっちり整理したい、という気持ちはありました。これはつい最近の話とかではなく、私がことあるごとに「泉北高速鉄道の運賃は日本一高いんや!」というセリフを聞くごとに、強く感じていたので、言ってみれば、小・中学生の頃からでしょうか。
(普通これくらいの時期、所謂「思春期」には、もっと別のことを強く感じるべきなのかも知れませんが、私の場合は残念ながら?そうでは無かったようです・・・)
今回、たまたまこちらの団体がこういう勉強会を実施するという記事を見て、改めてまとめる機会が出来たことは、個人的に意義があったと思っています。
稚拙な理論展開、駄文乱文等、読者の皆さんには物足りない点も多々あろうかと思いますが、泉北高速鉄道の運賃を議論する際のたたき台(薄っぺらいまな板みたいなものと言えなくもないですが・・・)としてこの一連のエントリーが活用されるのであれば、記した当本人としても嬉しいと思っています。
最後までお読み頂きまして有難うございました。

にほんブログ村
全4回、ということは「起承転結」という論理展開がスマートだ、というのは作文や小論文の添削でもよく言われますが、これをこのシリーズに当てはめると、「起・承・承・承」となってしまうような気もしないでもないですが・・・
前回の終わりでは、泉北高速の民営化による運賃体系の変化や、今後の理想論について今回は述べたいと記しました。
まず「泉北高速の民営化」とは言いますが、泉北高速鉄道を運営する大阪府都市開発株式会社の株主は大阪府を含めた企業等となっています。
基礎的な知識としてですが、「大阪府都市開発株式会社」は、泉北高速鉄道だけでなく、トラックターミナルの運営等の事業を行っています。
大阪府都市開発株式会社Webページ
今回の株式売却案では、大阪府都市開発を事業ごとに分割し、各事業の大阪府の株式持分を売却しよう、ということのようです。
トラックターミナル事業等は、今回の話の対象ではないので割愛し、ここから先は単純に「大阪府都市開発株式会社 泉北高速鉄道事業」のことについて書いていきたいと思います。
今回の民営化では、大阪府が保有する株式を売却するだけで、他株主所有分の株式がどうなるのか、特に言及がありません。仮に、大阪府以外が保有する株式も含めて100%を売却というのなら、100%子会社化、そして親会社と合併ということは十分あり得るでしょう。親会社が南海電鉄でここまでたどり着くと、同じ運賃体系が適用される可能性は決して低くないと思われます。
逆に大阪府以外の株主が引き続き株式を保有するとなれば、現・泉北高速鉄道と南海電鉄とは別法人のまま存続する可能性は高いと考えられます。勿論、他の株主と調整の上、合併することも可能でしょうが、その調整が簡単に進めることができるかどうかも分かりません。別法人のままだと、「割高と誤解される」2社間をまたがる運賃体系は引き続き維持されることになります。
もっとも、例えば南海が主要株主となることで、南海・泉北間の乗り継ぎ割引を拡充するとなればまた違う話になるのでしょうが、親会社と子会社との間で、大幅な運賃割引が実施されている例はあまり聞いたこともなく、あまり現実味はありません。
次の表では、現行の「泉北+南海」の運賃と、泉北高速の区間も南海の運賃に統合された場合の泉ヶ丘からの運賃表を掲載しています。
泉ヶ丘〜なんば間で90円の値下げとなります。確かにここまで来ると「日本一高い」という誤解はかなり減るのかな、とは思います。
逆に、「たったその程度の値下げなん?」と思われるかたもいらっしゃるかも知れませんね。半額くらいの予想をしていたらそうでもない。これは結局泉北高速線の距離が実はかなり長いということにもなるのでしょう。
さて、上記で「同じ運賃体系が適用される可能性は決して低くない」と、表現をしました。はっきり「可能性が高い」と言い切っていないのは、それなりの理由がありまして、「別法人で支線となるニュータウン線を建設」→「本線の会社に吸収」のケースで、運賃体系は、吸収前つまり別体系のまま存続したという事例があるからです。
その事例は、元・千葉急行電鉄線、現在の京成千原線です。
千原線は、元々京成電鉄や自治体等が出資する第三セクター鉄道「千葉急行電鉄」が運営する鉄道路線でしたが、沿線ニュータウンの人口が伸び悩みや、並行するJR線への乗客流出で開業早々債務超過に陥り、開業後わずか6年で会社は精算、路線は京成電鉄に譲渡されました。
その千原線の運賃は、千葉中央駅で接続する京成千葉線とは別体系となっており、千葉線と通しで乗車する場合でも初乗り運賃を2回支払うことになります。但し一部区間には割引があるようです。
参考:京成電鉄Webページ内運賃表(PDFファイル)
勿論、「人口が増加せず債務超過で陥ったものを引き継いだ路線」(千原線)と「成熟したニュータウンで安定的な収益を生み出せる路線」(泉北高速鉄道)とは事情が違うというのは十分承知ですが、ここでは、「同一会社となって区間が連続したからと言って、運賃体系を統合しなければならない『わけではない』」という例を紹介しておくために取り上げました。
もっとも、合併したとしても、コスト面では高野線との運営統合が出来ない限りは運賃体系の統合は難しいわけであり、泉北高速鉄道民営化で運賃値下げ、と短絡的に考える人も多いような気もしますが、そうなるには高いハードルがあるのかな、とも思えます。
では、泉北高速鉄道線が同一法人となるにしろ、別法人となるにしろ、運賃体系の再構築が不必要かというと、そういう訳では決して無く、例えば堺市内の交通体系を考える場合、泉北高速鉄道沿線の南区と中心部を結ぶこの路線が利用しやすいような運賃体系とすることで、南区・中心地間の堺市内の公共交通利用者の増加や、ひいては両エリアの活性化につなげることも考えられなくはないと思います。
こうなると、もう鉄道事業者単体だけでなく、堺市役所が市内全体の公共交通機関をどう考えて、どれだけの投資や支援ができるか、という議論になるかと思います。
今堺市ではLRT計画が進められていますが、計画までは出てきているものの、それから先が進まないのはこのブログの堺市LRT関連記事をご覧になればお分かりいただけるかと思います。
ただ、LRTだけでなく、と書くとLRT反対論の入り口に立っていると誤解されかねなので少し言い方を変えて、LRTに加え既存の鉄道を含めて利用しやすい運賃体系を構築し、運賃収入を上回るいわゆる赤字分は堺市が公的支援をする、というやり方もありかな、と思います。
南海・泉北・阪和線ともにICカード乗車券での乗車が可能ですので、堺市民専用のICカードを発行し、堺市内相互間の利用は一定金額を上限とする運賃体系(例えば1回の乗車で上限250円など)とし、不足分をICカードの利用状況から算出して堺市から各鉄道事業者に補助、というやり方も可能といえば可能でしょう。これに堺市LRTも含めることも勿論できるでしょうし、更に言えば南海バスも含めて、市内の鉄道・バスを低負担で利用できるといった、ヨーロッパの各都市で実際に行われている仕組みを堺市でも実現できるのではないか、と思います。
先日の新聞記事では堺市・和泉市が大阪府に対して泉北高速鉄道民営化に際する要望を提出していました。ただ、長期的には堺市自身が市内の公共交通をどう体系立てて行くのか、という長期的・広範な視野を持って政策の策定をしていく必要があると思います。
このシリーズもようやく最終回、そしてその最終回を無事終われるところまでたどり着きました。
読者の皆様には「そんなん興味ないよ」とお思いの方も少なからずおられるかも知れませんが、「その1」のエントリーでも述べたように、「泉北高速鉄道が(日本一)高い」ということに対する反論を行い、尚かつそのワンフレーズでは片付けられない問題点については、いつかまとめて述べることで、泉北高速鉄道の運賃体系をきっちり整理したい、という気持ちはありました。これはつい最近の話とかではなく、私がことあるごとに「泉北高速鉄道の運賃は日本一高いんや!」というセリフを聞くごとに、強く感じていたので、言ってみれば、小・中学生の頃からでしょうか。
(普通これくらいの時期、所謂「思春期」には、もっと別のことを強く感じるべきなのかも知れませんが、私の場合は残念ながら?そうでは無かったようです・・・)
今回、たまたまこちらの団体がこういう勉強会を実施するという記事を見て、改めてまとめる機会が出来たことは、個人的に意義があったと思っています。
稚拙な理論展開、駄文乱文等、読者の皆さんには物足りない点も多々あろうかと思いますが、泉北高速鉄道の運賃を議論する際のたたき台(薄っぺらいまな板みたいなものと言えなくもないですが・・・)としてこの一連のエントリーが活用されるのであれば、記した当本人としても嬉しいと思っています。
最後までお読み頂きまして有難うございました。

にほんブログ村
確かに「泉北高速は高い」とよく言われますが、よくよく考えてみると「都市伝説」の類で、それほど高くはないですね。