ことあるごとに取り上げている堺市のLRT計画を中心とした公共交通関連の話題です。
先のエントリーでは、堺浜方面への延伸について、LRTだけでなく、地下鉄四つ橋線の延伸を検討している旨、ご紹介しました。
本日ご紹介するのは、この計画についてでありますが、何とこの延伸に、ニュートラムを利用しようということを、竹山市長は言い出しています。

建設費、地下鉄の半分 ニュートラムを堺へ…堺市長が提案(読売新聞Webページ)

個人的な感想ですが、いよいよセンスのなさが露呈してきた、と思わざるを得ない感じです。
(本当は、出身高校の20年くらい上の先輩に対してこういう物の言い方はしたくないものですが、出てくる案がどれもこれもがこんな体たらくですから、仕方なくこういう表現をさせていただきたく存じます。)

元々堺浜方面への鉄軌道の延伸がLRTで進められていたのは、次のような条件があったからと思われます。あくまでも私の意見です。
・ヘビーレールを設置するほどの需要はないと見込まれるが、バス等ではなく鉄軌道としての交通網整備が必要。
・堺市中心部と結節し、市全体への経済等の効果を波及させる(将来の直通運転等も視野)
・過度な投資を必要としない、経済的に比較優位な整備方法が必要

ところが四つ橋線の延伸では、これら3つの条件の全て逆を行くような計画でした。さすがにそれでは、ということで特に3つめの条件に目をつけて、四つ橋線と同じく、既に住之江公園まで路線が延びているニュートラムを延伸しよう、という案を竹山市長は考えている、という記事です。

ニュートラム(大阪市交通局南港ポートタウン線)は、いわゆる「新交通システム」の一つでして、ゴムタイヤで走る乗り物であります。そのため、結局既存南港ポートタウン線との直通(一体運行)を行う位しか拡張可能性が無く、そういう意味では西梅田まで直通できる四つ橋線の延伸よりも更に旅客流動の確保が難しいとも言えます。
勿論これは、南港WTCを中心としたベイエリアへの堺市内からの交通手段の整備、という理由付けも可能でしょうが、とすればますます堺市から大阪市内への旅客流動の流出、という事態も大いに考えられます。
また、整備費が地下鉄に比べて経済的、という点がありますが、これとてLRTの整備に比べると全線高架で路面を走ることが構造上できない新交通システムは、建設費・維持費の面でLRTより高くなる(高架橋等、インフラの数が多くなるとこれらの費用も自然と高くなる)可能性は高い思われます。
お断りしておくと、前市長のLRT計画でも臨海部は一部高架を通ることとなってはいましたが、途中から路面を走ることになっていたので、その点でもインフラ面のコスト差はあると思います。
あとは、車庫等の設置コストがかからない分はニュートラム有利となりますが、それでも編成数増加分を留置させるだけの場所を新たに確保する必要があるため、これとて全くゼロ、という訳にもいかないかも知れません。(例えば、車庫の増強分が堺市負担等)

何だかこう見てみると、マニフェストを掲げて当選した以上、「意地でもLRTはやらない」という意図がミエミエなのは、私だけの感想でしょうか。逆にこんなに的はずれな案ばかり出てくると、何らかの鉄軌道を整備するとすれば、やはりLRTになってしまうのでは、思ってしまわざるを得ない、そんな気がしてしまいます。

逆に言えば、四つ橋線・ニュートラムの延伸計画がともに南海堺駅方面と結ぶのではなく、住之江公園方面と結ぶことからも分かるとおり、竹山市長は堺市内への波及効果ではなくむしろ大阪市、特に南港方面への波及効果を念頭に置いているのかも知れません。それは、選挙の時に応援を受けた橋下大阪府知事との関係、という面もあるでしょうが、そういう、ある意味市外への効果流出の考え方について、市税を払っておられる市民の皆さんがどのようにお考えなのか、率直なところを知りたい気持ちはあります。

個人的な意見を言えば、堺市くらいのポテンシャルを有している自治体ならば、大阪市におんぶにだっこされる立場ではなく、ある程度の市内で完結できるシステム作りが必要と思います。
特に政令指定都市となり、財源・権限ともにバージョンアップ(このバージョンアップの度合いは特例市・中核市とは段違い)した今においては、本当に必要なのは、まず堺市民、そして堺市経済が自己完結できるまちにしていくことではないかと思うのです。そういう姿勢が、更に人やモノ、お金や情報といった経営資源を集めることになるのだと思っています。
交通政策においても同様でして、特に堺市は市外へ流出する交通網となっていたことが、堺市の自己発展を阻害していた面があったと思いますので、その点を是正するためには、まずは市内の交通手段、特に手薄であり、市の発展の阻害要因であった東西網の整備だと思っていました。

まあ、これは私が単に思っていたところもあり、結局は市民の判断ということになりますが、その市民の判断とも言うべき選挙の争点でLRT計画中止を掲げた竹山市長が当選しました。
しかしそれは、単に「LRT計画中止」に対する判断というべきであり、そこから当然に「臨海部から大阪市内への交通網の整備」というのは導かれるものでは無いのではないか、と思うわけです。そういう意味では、今の市民の皆さんがこの状況をどうお考えなのかな、というのが気になるところではあります。

取り留めもない内容のエントリーですが、これまでに加えて私がこのニュートラム案に対して新たに思ったことは、次の2点でしょうか。

・何でまた拡張性の低いニュートラムを選ぶのか、といった相変わらずのセンスのなさ。
・マニフェストに掲げた関係上、意地でもLRTを用いた計画は避けようとしてしているところがありますが、それで合理的な判断ができると思えているのか、といった懸念。

何だか結局LRTとかいうそういうオチになってしまうのかどうか、これまた今後の推移をチェックしておかなければなりませんね。