新聞の書籍関係広告で気になるタイトルと著者だったので、思わずネットで注文して読んでみた本です。

Amazon.co.jp: 鉄道復権: 自動車社会からの「大逆流」 (新潮選書): 宇都宮 浄人: 本

著者の宇都宮浄人さんは、「路面電車ルネッサンス」という新書をはしりに、LRTを軸とした鉄道再生についての著作が多いと思っていましたが、今回の「鉄道復権」は、LRTも含めた、主にヨーロッパで動いている鉄道復権の動きについて記し、日本に対する示唆を提示する、という内容となっています。

ヨーロッパで起こっている鉄道復権の動きは、日本を中心に見ている私みたいな人間にとっては、非常にドラスティックな動きがいままさに起こっている、といえるでしょう。
上下分離の概念は、日本でも既に様々な手法で取り入れられており、それが地方鉄道支援の方策の一つとなりつつあることはこのブログでも時折ご紹介していますが、ヨーロッパでは、上下分離を行った上で、「上」の部分への参入を競い合う仕組みを構築する、いわゆる「オープンアクセス」の概念を取り入れることで、特に貨物鉄道に関しては、日本での常識では考えられないような競争が鉄道事業者間で起こっています。

また、地方都市でもLRTを軸とした鉄道再生は、既に日本でも度々紹介されていますが、ヨーロッパのそれは、それに加えて既存路線の再構築を大々的に行うことと、徹底した公共優遇政策を実施することで、鉄道を始めとした公共交通機関の利便性の向上を目指し、都市の質の向上を目指しています。

そういった、ヨーロッパでの徹底した鉄道復権の動きは、あまりそちらの情報を体系的に仕入れていない私にとては、非常に新鮮に感じましたし、これらを知ることが出来ただけでも、この本を購入する価値はあったのかな、と思いました。


確かに、大都市に人口が集中する日本では、ヨーロッパのような手法が必ずしも通用するとは思えない部分もあるとは思いますし、また他国と陸続きではないという地理的条件から、オープンアクセスの現実性についても疑問符が無いわけではない、という考えを持っている向きも多いのかも知れません。

ただ、日本でも今後人口減少は早かれ遅かれ訪れることは確かと思われますし、そういう時代に求められている公共交通はどうあるべきか、ということについても何らかの示唆を与えているのではないか、と思います。

これまでは、鉄道事業は施設の建設・保有・運営を含めたトータルでの採算を一事業者に求めてきた節がありました。しかし、今後同じ姿勢を求めていては、整備されるべき公共交通が整備・維持されないままとなることは明白になると考えられるでしょう。
そういう意味では、上下分離というのは、鉄道整備を、これまでの日本のモデルであった民間による収益事業から、公共インフラの整備に考え方を転換させる意味があると思いますし、そこで整備されたインフラを効率的に運営するために、オープンアクセスで効率的な運営ができる事業者を選択する。
鉄道という分野から離れれば、特に違和感を感じるものではないと思いますが、日本の、ある意味これまでの成功体験が、こういう考え方のシフトを妨げているのかも知れない、と感じていますし、その変化を読み取り、諸外国の事例を参考して日本でのモデルを構築していけるかどうかが、豊かな交通手段の確保、ひいては豊かな生活の構築につながっているのかな、とも感じました。

自動車社会からの大逆流、とはありますが、むしろ自動車社会を所与のものとして、鉄道はどのようなあり方が考えられるのか、という筆者なりのメッセージが込められてた一冊、と感じました。



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