先日青森から札幌までの急行「はまなす」、そして札幌から新千歳空港の快速「エアポート」と、JR北海道の列車に乗車してきました。

そのJR北海道では、相次ぐ列車火災や脱線事故、そして軌道データの改ざん等から、平成26年1月には国土交通大臣より事業改善命令・監督命令を受けるに至りました。
その命令の中で、JR北海道が講ずべき措置として第三者による外部からの視点に基づき、再生に向けた監視・助言を行うとともに、将来に向けた追加対策等の提案を行う諮問委員会等の常設の組織を設置することが求められ、昨年6月に「JR北海道再生推進会議」(再生推進会議)が設置されました。

この再生会議では、これまで7回に渡る会議の開催の他、現場調査を実施し、JR北海道の再生に向けて真剣な議論を重ねてきましたが、この度これまでの議論を取りまとめ、再生推進会議としての提言書を策定し、JR北海道へ提出しました。

「JR北海道再生のための提言書」の提出について|JR北海道
「JR北海道再生のための提言書」|JR北海道
「JR北海道再生のための提言書」(別紙)|JR北海道

提言書の内容としては、再生推進会議が真の問題点として認識した「事業運営における安全の位置づけ」「経営幹部の意識」「安全に対する意識」「安全に対する対策」「JR北海道の構造的な問題」を分析した上で、再生推進会議の提言として、「安全を再優先とする経営幹部の意識改革」「安全に対する意識」「安全に対する対策」「持続的な経営改革」の4点についての具体的な方策を掲げています。
詳細な提言内容は、上記PDFファイルにて提供されていますので、こちらをご参考下さい。


私自身もこの提言書をプリントアウトして、目を通してみましたが、それを元に以下に私見を述べてみたいと思います。

JR北海道の企業自体の風通しの悪さ、そして元来厳しい経営環境が故に十分な安全対策の費用をかけることができず、対策が先送りになった結果、相次いで重大インシデントを発生させたという、その因果関係が読めばおおよそ理解できるのかな、と感じました。

再生推進会議が掲げた提言として、「安全を再優先とする経営幹部の意識改革」や「安全に対する意識」といったところは、かつて福知山線事故を発生させたJR西日本のエリアを日常利用している私にとっては、まあその通りだろうな、といった感じの内容でした。

JR北海道に特有の問題で、だからこそ個人的にも違和感を若干抱いたところが、「安全に対する対策」や「持続的な経営改革」といったところでしょうか。
まず「安全に対する対策」としては、「緊急的な安全対策を着実に実行すること」「事故等の原因究明・再発防止対策の検討体制を見直すこと」「安全を再優先に投資・修繕を実施すること」などの9つの項目が掲げられています。

そのうち、「安全を再優先に投資・修繕を実施」では、優先順位の低い施策から手を引く具体例としてイベント列車を掲げています(P25)が、観光客も主要な利用者であるJR北海道のエリアで、果たしてイベント列車が優先順位が低いのかどうか、ちょっと判断に迷うところはありそうにも感じました。

また、続くP26では「設備のシンプル化・効率化」とあり、具体例として「車両の形式を標準化するなど無駄を省き、効率化すべき」とありますが、かつてJR北海道ではキハ130形という低コスト運用が可能な気動車を導入したものの、相次ぐ問題点から早期に引退し、皮肉にも国鉄時代に導入されたキハ40形がその置き換えに充当されるということもあり、おもむろにコストダウンを追求した結果の失敗例があったりと、実際に実行するには、同じ轍を踏まないような対策も必要となってくるのかな、とも感じました。

一方、「持続的な経営改革」として、JR北海道の構造的な問題として事業構造が慢性的な赤字であり、その結果安全確保に経営資源を投入できなかったこととし、持続可能のために経営資源の「選択と集中」を進めることとしています。
その具体例として、「鉄道特性を発揮できない線区の廃止を含めた見直し」(P30)、といったような聖域のない検討を行うことが必要としており、更に言えば「残された時間は短い」として、早期の決断を促しています。
その一方で、次の段落では「安易な路線の休廃止は進めるべきではない」として、「JR北海道の持つ公共性や地域への影響を考慮し、・・・丁寧な説明を行っていかなければならない」としており、一見矛盾するような書き方をしているところに、公共交通機関としての使命を担うJR北海道の「選択と集中」の難しさを感じるようなところも見受けられます。

その後、「国、自治体、地域の皆様へお願いしたいこと」として、当面必要となる安全投資や修繕資金についての国による財政的な支援を依頼している(P31)ほか、最後に「総合的な交通ネットワークを検討する会議体の設置について」(P32)として、北海道民の足の確保についてはJR北海道だけの対応では不十分で、広い視野から総合的に検討する会議体の設置を提言しています。
これまでこういった会議体については、市町村レベルの地域交通機関については各地で設立されており、地域の足をどう確保するかが真剣に議論され、そして実施に移されているわけですが、北海道という広いエリアの公共交通をどう確保し、どう役割分担するか、その中でJR北海道が担うべき役割はどこか、という議論を行うとなれば、これまた前例もない上に、道内各地の事情も絡んでくることでしょうから、早期に議論を済ませ、交通網の整理を行うことができるのか、という点を考えるとこれまた難しいのかな、とも感じました。

ここまで読んでみて、結局のところJR北海道が抱える問題は、利用者数があまり多くなく経営的に脆弱なところがに尽きるのではないか、とも思われました。

経営的に脆弱だから、安全対策への投資が十分に行うことができなかったともいえますし、逆の見方をすれば、脆弱な経営を少しでも補強していくために、特急列車の高速化により競争力(主に対道路)の強化を図ってきたともいえます。
この提言書では、特に特急列車の高速化について「身の丈以上のスピードアップへの投資・・・など総花的で全方位に対して『よい顔』をする華のある施策」(P13)などとして批判される結果となりましたが、逆に言えば当時の高速化が無ければ、現在のJR北海道が置かれた状況は更に深刻だったとも考えられ、そういう意味では高速道路の延伸が明らかであった当時においては、必要に迫られた上での施策なのではないか、とも思えたりしました。

「選択と集中」についても、JR北海道の論理だけで進めるのであれば、閑散路線を一気に廃止することもできなくはないのでしょうが、沿線の反対が予想される状況で、そこまで積極的に進めることができたのか、と考えると、これまでのJR北海道には少々無理な話だったのかも知れません。
加えて、民営化時の経営安定基金が路線網の維持の意味合いもあったことを推察すれば、利用が減ってきたから即廃止、というのも批判を浴びることになっていたかも知れません。

そういった状況の下で、これまでの「選択と集中」の甘さをJR北海道の責のみに帰すのも果たして妥当なのかな、とも思います。
とすれば、沿線住民・自治体がJR北海道の状況を理解した上で、必要な路線かどうかを判断し、必要であればその分の負担を行う、またJR北海道はその判断に資するだけのデータを開示する、といったことが必要なのかな、とも感じました。


色々気がついたところを取り留めもなく書いてきた、まとまりのない感想となってしまいましたが、下記北海道新聞の記事にもあるように、「選択と集中」といった例の路線廃止で留萌線の廃止が検討されているという報道もありますし、そのような例は今後道内でも出てくるものと思い、それに連れて、当ブログでも取り上げていかざるをえない動向であると言えます。
それだけに、こういった動きも今後色々出てくるのだろうな、と考えられる提言書の内容と感じましたので、ちょっと取り上げてみることとした、本日のエントリーでした。

JR北海道再生会議、ローカル線廃止など「聖域のない検討」提言 | レスポンス
留萌線の廃止検討 まず留萌―増毛、18年度までに JR、沿線自治体に意向 | どうしんウェブ/電子版(社会)


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