時折アップしている鉄道関係書籍のご紹介。
今回は、中公新書から出版されている「通勤電車のはなし」をご紹介します。
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通勤電車のはなし 東京・大阪、快適通勤のために (中公新書) [ 佐藤信之 ]
通勤電車のはなし 東京・大阪、快適通勤のために (中公新書) [ 佐藤信之 ]

内容としては、東京圏・大阪圏で、どうすれば快適に通勤できるのか、新線の建設やダイヤの工夫、新型車両の導入など鉄道会社は努力を積み重ねてきたが、なお改善が必要であることから、主要路線の問題点と対策を解説し、過去から将来までの通勤電車の全てが分かる本、となっています。

構成として、第1章で通勤電車のはじまりから、通勤電車による社会的損失の総額、輸送力の増強方法の概説の後、第2章・第3章で東京圏・大阪圏の鉄道ネットワークの現状、第4章・第5章で東京圏・大阪圏の人口動向と輸送改善、第6章・第7章で両都市圏の混雑緩和の推移、第8章・第9章で今後の展望を記す、というものとなてちます。

ご覧のとおり、東京圏に加えて大阪圏についても相当のページを割いていることから、自分の地元との通勤電車がどのように記されており、また分析されているのか、楽しみにして購入したのですが、その期待とは裏腹に、「そうじゃなかった」感を抱きながら読了した次第です。

以下に、その原因ともなった問題の記述について、触れていきたいと思いますので、ご参考になれば幸いです。

●新快速が外側線を走り始めたのは、国鉄時代末期からだったような気がするのですが…
国鉄が分割・民営化してJRが誕生すると、新快速が外側線へ移され、・・・(P82)


国鉄時代から設定されてきた新快速列車。
草津〜西明石の複々線区間では、長らく内側線(電車線)を走行してきましたが、これが外側線(列車線)に移されたのは、国鉄最後のダイヤ改正であった昭和61年11月のダイヤ改正からのはずです。
同改正は民営化を前提とした改正であったことから、実質的にはJR発足後を機に外側線の走行、といえなくもないのですが、事実関係としては誤り、といえるでしょうか。

●新今宮が「乗り換え不便」と批判されるのが納得いかなかったわけですが…
乗り換え不便な新今宮
・・・また、新今宮駅に隣り合って地下鉄御堂筋線と堺筋線に駅があるが、こちらの駅名は動物園前である。南海と乗り換えるには環状線・関西本線のホームの長さ分だけ歩かなければならない。・・・(P96)


「新今宮が乗り換え不便?!!」という小見出しに、南海・阪和線ユーザーの私としては脊髄反応してしまいました。

「新今宮駅での乗り換え」と聞いて、多くの人が想像するのは、南海(本線・高野線)〜JR(大阪環状線・関西本線)との乗り換えだろうかと思われます。
新今宮駅│構内図:JRおでかけネット
ご覧のとおり、南海とJRの改札が同じフロアで向かい合わせに設置されていることから、寧ろ乗り換えに便利な方の駅だと長年思っていただけに、その常識がこうも通じないことがあるのか!と、驚き、呆れてしまったものでした。

「あそこを乗り換え不便というなら、全国どこの乗換駅も不便になるじゃないか!!」と思いながら、もはや不信感満載で読み進めると、どうやら南海から地下鉄(動物園前)との乗り継ぎがあまりにも遠いことを指摘していました。

「いやいや、新今宮でそんな乗り換えその駅でする人少ないから!!」と思ったりしましたが、南海本線〜御堂筋線方面動物園前以南だと、この乗り換えルートにならなくもないのでしょうが、今日日それなら天下茶屋から堺筋線経由の方が、乗り換え回数が増えるが徒歩距離は少ないことから、まず新今宮〜動物園前乗り換えは使わないのじゃないのか、とも感じました。

「それを言うなら東京にはもっと乗り換えの距離の長い駅がごまんとあるのに、なぜ新今宮がやり玉に挙げられるのか」と納得がいかない部分でした。

●「上尾事件」の写真は掲載されているのですが、本文に触れられておらず…
図4−8 混雑や順法闘争に対する怒りから、乗客が駅舎や車両を破壊する事件が起こった(昭和48年、高崎線上尾駅)(P118)


これは東京圏の話ですが、大阪圏の人でも少しは認知されていると思われる「上尾事件」。
沿線人口の増加に対して輸送力が追いつかず、しかも当時の国鉄では順法闘争(法規を厳格に遵守することで正常な運行を阻害し、遅延等を発生させる争議手段)により遅れが常態化したところに、運転見合わせの一報から多くの乗客が暴動を起こしたこの事件。

その写真が掲載されているのはいいとして、その関連が本文で全く触れられていないので、これはどうしたことか、と感じました。
恐らく拡大する都市圏に対しインフラの整備が追いつかず、乗客の怒りが頂点に達したことを触れたかったのでしょうが、本文に何も書いていなければ、どうしようにも仕方が無い、としか言えません。

これはどちらかと言えば、著者よりも発行・編集者のミス、ともいえるかもですね。

●格子状の路線構造と、繁華街で駅が分散するのは別問題じゃ・・・?
路線上が格子状であることは、1回の乗り換えでたいていの地点にたどり着けるという利点があるが、井歩婦で、地下鉄の通る通りが違うので、繁華街で駅が分散してしまうことになってしまう。(P160〜P161)


大阪の地下鉄は、市の中心部では、市内の主要道路に沿って南北方面(御堂筋線・堺筋線・谷町線の各線)と東西方面(中央線・千日前線・長堀鶴見緑地線の各線)の各線が交差している、格子状の路線網が形成されています。
これにより、中心部の移動にどの線を利用すればいいのかイメージがつきやすいという利点がある一方、斜め方向の移動には2回乗り換えが必要となったりするケースも生じる短所もあります。
結局このあたりはどう路線網を引こうとも、何らかの形で顕れるメリットとデメリットであって、そのデメリットを指摘したところで、解決できる問題でも無く、結局は路線網と需要がどれほど合致しているのか、という問題に集約されるものと考えられます。

ただ、この路線網が故に、繁華街で駅が分散するのとは別問題では、とも思います。
繁華街で駅が分散するのは、それは寧ろ「繁華街が大きくなりすぎた」結果とも言えますし、それが端的に表れているのが梅田(梅田・東梅田・西梅田)でしょうか。
同じ問題は、新宿でも起きているだけに、殊更大阪の地下鉄に起因する問題ではないかと思われますが、なぜここでこのような分析に至ったのか、不思議な箇所です。

●今の寝屋川市駅は、かつては寝屋川信号所だったんですか?京阪に詳しい方ヘルプ…
京阪電気鉄道も…大阪私鉄の中で一番複々線に熱心な会社となり…昭和55年3月16日に門真市〜寝屋川信号所(現寝屋川市)間を複々線化した。


京阪電鉄の複々線化の進捗を記している部分ですが、このままだと今の寝屋川市駅が、かつての寝屋川信号所ということ、そして複々線区間が現在の寝屋川市駅まで続いていることになります。
しかし実際はそんなことはなく、複々線区間は、萱島〜寝屋川市間の寝屋川信号所までとなっており、寝屋川市駅は複線区間となります。
よって、カッコ内の記述は本来不要、あるいは「(萱島〜寝屋川市間)」とすべきところでしたが、何故かこのようになってしまっています。

京阪ファンが読んだら、怒り狂いそうな内容ではありますが、ここもカッコ内の記述ミス、と見逃したいところですが果たして…

●京阪中之島駅と大阪国際会議場と大阪サミット誘致との時系列関係…
また、平成20年に開業した京阪中之島線の沿線では、中之島にあった大阪大学医学部を千里に移転して、大阪市はその跡地に国際会議場を建設して平成12年にサミットを誘致する考えであった。その国際会議場の最寄り駅として中之島駅を建設した。しかし結局九州・沖縄に決まってしまった。・・・


大阪国際会議場が平成12年のサミット誘致をにらんで建設されたことは確かなのですが、その最寄り駅として中之島駅が建設されたのが、この文脈では大阪国際会議場が建設されたのと同時期、とも受け取られかねないともいえます。

また、中之島駅の建設とサミット誘致は、そもそも関連性がなかったわけで、ここのくだりで殊更サミット誘致の話を持ってくるところに違和感を抱きました。

●最後に提言めいたものが、あるにはあるのですが…
大阪で地下鉄を整備すべきなのは都心部であろう。格子状に建設された地下鉄網を斜めに結ぶ路線で、しかもキタとミナミに経済活動が集中する都市構造を緩和するために都心部に新たな核を開発するために役立つ路線の新設が求められる。具体的には、新大阪・難波を直結するなにわ筋線、湾岸部(夢洲)の副都心化と中之島線延伸、ミナミを周回するLRTではないだろうか。(P277)


全般を通して、東京圏・大阪圏の現状と計画を羅列した印象のこの書籍。主要路線の問題点といっても、目新しいものが特に見られたわけではありません。
ただそれだから直接価値がないと言えばそうではなく、事実と計画を整理すること自体に価値があるものだと思っていますし、そういった構成で、かつその内容が妥当なものであったなら、ここでご紹介する評価も180度違っていたかも知れません。

そんな中、最後に提言のようなものが書かれていました。
その内容は、上記に引用したものでして、どうやら格子状に建設された地下鉄網を斜めに結ぶ路線やが必要、そしてキタとミナミ以外に新たな都市の核が必要なこと、そしてその答えがなにわ筋線や夢洲への中之島線延伸、ミナミを周回するLRTとのことです。

大阪圏の人口が今後長期的に減少していくなか、キタとミナミに集積している都市機能を更に分散させるのは、共倒れする危険性が大きく、都市機能の衰退を招くことが大いに考えられます。
そもそも、大阪圏が縮小基調にあることを、どこまで著者が認識しているのかも、少し怪しく感じたりもします。
また、地下鉄網を斜めに結ぶ路線が、いまの大阪の地下鉄網で必要かというと、そこまで必要とも思えませんし、なにわ筋線がその解決策ではないともいえます。

結局、この最後の結論は、今後の計画ありきで後付けの理由を記したものとも考えられるだけに、少しがっかりした感じでした。


以上のように、当ブログでの鉄道書籍関係の紹介では珍しく、なにかとネガティブな感想の羅列となってしまいましたが、何故にここまで書いてしまったのかというと、やはり大阪圏の通勤電車の話をもっと正しく・分かりやすく書かれているのではないか、と期待してこの本を本屋で手にして、代金を払って購入した、その思いを少なからず裏切られたからなのかな、とも感じました。

もっとも著者の佐藤信之氏は、東京都生まれで基本東京で生活してきたことから、大阪圏の事情に疎いのは理解しているのですが、それにしてもちょっとなあ、とも感じた次第でした。

<書籍データ>
通勤電車のはなし
著者:佐藤信之
発行所:中央公論新社
価格:本体900円+税



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