JR西日本では、この2月に「ローカル線に関する課題認識」として、同社の抱えるローカル線の現状と今後の検討について発表を行い、その中で輸送密度2,000人/日未満の線区の経営状況に関する情報を開示を検討することとしていました。



今回、その線区別の経営状況に関する情報開示を行うこととしました。

ローカル線に関する課題認識と情報開示について:JR西日本

概要は以下のとおりです。

【線区別の経営状況に関する情報開示】
・輸送密度(平均通過人員)2,000人/日未満の線区について、一定の前提をおいた算出のもと、線区別の収支率(当該区間にかかる費用に対する収入の割合)などを開示。

・収入は線区運輸収入、費用は線区で発生する費用を計上(管理費等は除外)

【対象線区】
jrw_localline
(上記発表資料(https://www.westjr.co.jp/press/article/2022/04/page_19817.html)より引用)

【経営状況の一例】
jrw_localline-2
(上記発表資料(https://www.westjr.co.jp/press/article/2022/04/page_19817.html)より引用)

【地域との対話に向けて】
地域と課題を共有し、「地域公共交通計画」の策定などの機会に積極的に参画し、地域のまちづくりや線区の特性・移動ニーズをふまえて、鉄道の上下分離等を含めた地域旅客運送サービスの確保に関する議論や検討を幅広く行いたいと考える。


詳細は、上記発表資料をご覧下さい。



既に先のブログ記事でご紹介したように、JR西日本ではこの4月にローカル線に関する課題を共有するべく、経営状況に関する情報の開示を検討していました。

今回その情報開示が実施されましたが、その内容をみますと、やはり収入に対して多額の支出が必要となっている点が改めて浮き彫りとなりました。


和歌山県内でいえば、紀勢線・新宮〜白浜間が対象となっていますが、この線区のデータは以下のとおりとなっています。
(上記引用画像の赤枠部分も参照)

【収支率及び線区営業係数】
・2017-2019平均:
19.0%、営業係数525

・2018-2020平均:
15.5%、営業係数647


このように、厳しい経営状況が明らかになっています。
営業係数でみて500〜600台となっていますが、これは収入の5〜6倍の費用がかかっていることになり、単独としての路線維持は収益的に困難、ということが改めて分かります。

また輸送密度についても、2019年度は1,085、2020年度は608と、民営化直後の2割程度という、非常に低い数値になっており、鉄道としての特性が発揮できない状況になっていることが分かります。


他線区でも状況は同じで、特に芸備線の東城〜備後落合間では、線区営業係数は25,416(2017-2020平均)、26,906(2018-2020平均)と、収入の250倍程度の費用がかかっているという、収支面だけ見れば今まで鉄道として運営してきたことが果たして正しい選択であったのか、と言わざるを得ないほどの、誤解を恐れずに言えば「天文学的な」収支状況となっています。


JR西日本では、今回の情報開示により沿線地域と課題の共有を行い、地域のまちづくりや線区の移動ニーズを踏まえて、鉄道の上下分離や地域旅客輸送サービスの確保に関する議論を行いたい、と考えています。

つまり、地域公共交通として維持するのには鉄道として妥当なのかどうか、また鉄道として維持する場合、JR西日本という一民間企業での維持ではく、地域でも一定の費用負担を行う形で、より地域を巻き込んだ地域公共交通の体系を構築したい、としているといえるでしょう。


今回の収支状況報告は、地域に対する課題の投げかけとの位置づけの一方、沿線自治体(首長)や住民、そしてマスコミからは「ローカル線切り捨て」という声も出てくるのではないか、とも思えます。

しかし、もはや「収入の何倍・何十倍もの費用を要する路線を鉄道として運営する」という、他の公共サービスでももはや考えられない状況であることをまずは理解した上で、各々の地域にどのような公共交通が必要なのかを、地元や事業者の意見を元に検討し、再構築していく必要があるのではないのでしょうか。

もはや「ローカル線切り捨て」という、何も理解せずにただ反対すればよい時代はとうに過ぎ去っていることは、十分理解した上で、今後の議論の推移をチェックしていきたいところであります。




【関連ブログ】
【営業係数25416】JR西日本、維持困難なローカル線30区間の収支公表 - 鉄道プレス

芸備線東城−備後落合間の営業係数、25416: たべちゃんの旅行記「旅のメモ」

wap ONLINE:JR西日本、閑散線区の収支状況を公開



【関連ニュースサイト】
100円稼ぐのに2.5万円 JR西 赤字30線区の現状 鉄道以外の方が「環境にいい」 | 乗りものニュース

JR西日本、輸送密度2,000人/日未満の線区対象に経営状況を情報開示 | マイナビニュース

JR西日本「営業係数ワーストランキング」。輸送密度2000人未満の路線で収支公表 | タビリス




↓↓鉄道系ブログ・ニュースポータルサイト「鉄道コム」はこちらをクリック↓↓
鉄道コム