このブログでは、時折鉄道関係の書籍・雑誌のご紹介をしていますが、今回ご紹介するのは、鉄道ジャーナルの2022年10月号です。

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特集は「観光輸送の視点」として、JR東日本「サフィール踊り子」、JR東海「HC85系ひだ」、京都丹後鉄道KTR8000形「丹後の海」、東武鉄道N100系「SPACIA X」、JR北海道釧網本線といった車両・線区を取り上げています。

いずれも、「観光」という切り口でのライターによる乗車記、そして記者会見及びその資料を基にした「SPACIA X」の記事となっています。

「観光」という観点では、各地で運行されている「レストラン列車」やJR九州の「D&S列車」が思いつきそうなものですが、そうではなく、近年投入された新型車両等を主体に、「観光地へのアクセス」という観点での特集と理解すれば、今回特集に選ばれた列車のセレクションについても、納得できる部分はありそうな記事でした。



ところで今回、敢えて近畿地区の特集でもない鉄道ジャーナルをご紹介した理由は、最終ページの「編集後記」にありました。

ここで「本誌のタブレット欄」として、これまで同誌で長年読者からの意見コーナーとして掲載されてきた「タブレット」欄の今後について、言及されていました。
以下、引用にてご紹介します。

■本誌のタブレット欄
今日では携帯端末の一つとして認識されている「タブレット」ですが、本誌におけるタブレットは鉄道の古い運転保安方式において”通行手形”として用いた「通票」を指しています。もともとの意義は読者の意見交換の場として提供していたスペースで、掲載されたコメントに対する賛否両論を翌月以降に掲載し、これを繰り返していくようなことを想定していたようです。そのやりとりを、駅でタブレットを交換するシーンに重ねたのでしょう。かつては毎号、数ページにわたって多くのさまざまな意見を掲載した時期もありましたが、最近では投稿がほとんどなく、わずか1ページが埋まらない状態でした。このところ休載としていましたが、いずれ募集を中止するつもりです。個人ブログやSNSを通じて鉄道に関しても気軽に意見交換ができる環境が整ったこともありますが、投稿が減った背景の一つに、趣味としての広がりとは別に鉄道の現状や将来に対する関心が薄れてきたことがあるように感じます。それは、例えば寝台特急がつぎつぎ廃止されていく中では車両やダイヤに対する改善の要望とかアイデアなど、ファンとして利用者として何かコメントせずにいられない思いがあったと想像しますが、ローカル線存廃問題などには触れにくい面があるといったことです。タブレット欄は硬軟多彩な意見が載るだけに毎号楽しみだったという意見もいただくのですが、一定数が集まらないとタブレット欄は成り立たないのです。

・・・鉄道ジャーナル2022年10月号 P130より引用、太字下線は管理人による。


鉄道ジャーナルの読者投稿欄として、400字程度にまとめた意見を紹介してきた「タブレット欄」。
少し前の鉄道ジャーナルを見ていたら、投稿数が10件程度と、かなり少なくなってきたのかな、という印象は漠然と抱いていました。
かつては、個人的な意見を記して同じ趣味の人々に見せる方法は、「タブレット欄」のような雑誌媒体しかなかったが故に貴重な手段であり、そのため多くの投稿を集めてきたのではないか、と思います。

しかし今般では、個人がブログやSNSを通じて意見発信ができる環境が整ったわけで、そうなると、実名が公にされるというリスクを抱えながら、数ヶ月待ってようやく掲載される可能性もあるという、「タブレット欄」のようなコーナーに、投稿が集まらなくなるのも、環境の変化としては仕方がないのかな、と思っていました。

既に「タブレット欄」とは桁違いのスピードと量の意見交換が行われている(このブログもその一部を担い続けているかも知れませんね)現状を鑑みると、やはり引用どおり「成り立たない」環境となったのではなかろうか、とも思います。


一方、上記引用では「鉄道の現状や将来に対する関心が薄れてきた」ことも、タブレット欄投稿減少の理由に求めていますが、むしろ鉄道の現状や将来に対する関心は薄れていないのではないか、と個人的に感じています。
従前と異なるのは、インターネットによる情報公開・情報提供の体制が整ってきたことから、事業者の情報もかつてとは比べものにならないくらいにファンが手にすることができるようになったことも関連があるのではないか、と思います。

即ちかつては、情報が少なかったことから熟考することなくファンが意見として出せたものが、現在では事業者の情報公開により現状が把握できた結果、もはや意見するまでも無い現状をファンが理解できるようになった、という点もあるのではないか、と思います。
違った言い方をすれば、「ファンが納得できる情報が事業者から提供される環境が整った」とでもいいましょうか。
そういった環境の変化もまた、「タブレット欄」をはじめとする投稿コーナーへの意見の減少の理由として考えられるかも知れません。



では、かつての「タブレット欄」、どのくらい投稿があり、またどういったテーマの投稿が行われていたのか。
手元に用意したのは、鉄道ジャーナルの1996年7月号。今から26年前の「タブレット欄」を覗いてみたいと思います。

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▲鉄道ジャーナル1996年7月号。
秋田新幹線の工事による運休で、代替として北上線経由で運行された「秋田リレー号」が表紙を飾っていました。
そういう意味でも貴重な一冊でありますね。

この号のタブレット欄の投稿内容及び投稿件数は以下のとおりでした。
・特急・急行を特急に統一するならば・・・
・<スーパーおおぞら>導入時に望むこと
・<スーパー北斗2号>の南千歳停車を支持
・真の"高速鉄道"誕生を
・<ムーンライト高知・松山>の定期化を望む
・駅撮りのマナーを考えて

(投稿数は55通)
・・・鉄道ジャーナル1996年7月号、P170〜P171より引用


わずか1月分のサンプリングでしたが、なかなか筋の通った内容が多いな、という第一印象でした。
特に最後の「駅撮りのマナーを考えて」は、投稿者が急行「東海」(1996年3月ダイヤ改正で特急化)のお別れ乗車に静岡駅で撮影していたところ、大勢の撮影者のうちの一人が子供に対した「子供!じゃまだ!!どけ!」という罵声を浴びせた、というシーンを元に、撮影者は他の利用者や鉄道職員の業務のことを第一に考えないといけない、という内容で、「何だか26年前から全く変わっていないな」という印象も抱き、何となく現状が情けないよなあ…と思ったりもしたい次第です。

ともあれこのように、読者の気のついた内容を投稿し、それに対する意見交換(上述の引用のうち、「特急・急行を特急に統一するならば・・・」「<スーパー北斗2号>の南千歳停車を支持」は前号までの「タブレット」に投稿された意見に対する内容)も行われていたのが、当時の「タブレット欄」でした。

1996年といえば、Windows95が発売されてすぐで、ようやく「インターネット」というものが認識され始めた時代で、まさか現在のようにこの手の意見交換が140字以内で活発に行われるツールが開発され、多くの鉄道ファンが使いこなす日が来るとは、決して思えませんでした。

それだけに、当時としては気の付いたことを書いて知らしめる上では重要な役割を果たしてきた「タブレット欄」ですが、上述の環境の変化で、その歴史を閉じようとしています。

私自身、この「タブレット欄」に投稿することはありませんでしたが、色々参考にしつつ、本当にファンといっても色々な考えがあるもんだな、と感じることができたのは、収穫だったと思います。


今後、「タブレット欄」のような趣旨のコーナーが鉄道ジャーナルに復活するとは思えないだけに、長年の役割を終えた、という意味でお疲れ様でした、という感想を記したいな、と思った次第でした。



各種ECサイトを掲載しておきます。
是非ともお手に取って確かめていただければと思います。



鉄道ジャーナル 2022年 10月号 / 鉄道ジャーナル編集部 【雑誌】
鉄道ジャーナル 2022年 10月号 / 鉄道ジャーナル編集部 【雑誌】




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