JR西日本は、同社の芸備線のうち、備中神代〜備後庄原間について、今年10月1日に施行された地域公共交通の活性化及び再生に関する法律(地域公共交通活性化法)に基づき、「再構築協議会」の設置を要請したことを発表しました。

地域公共交通活性化再生法に基づく再構築協議会の要請について:JR西日本

概要は以下のとおりです。

【要請する路線・区間等】
路線:
芸備線

区間:
備中神代駅(岡山県新見市)〜備後庄原駅(広島県庄原市)

【要請する理由】
芸備線については、これまで沿線地域と共に様々な利用促進、地域活性化の取り組みを行ってきた。
一方、人口減少や少子高齢化に加え、道路整備や道路を中心としたまちづくりの進展など同線を取り巻く環境の大きな変化と共に、利用者数は大きく減少している。
特に、備中神代駅〜備後庄原駅間については、将来の地域のまちづくり計画と移動ニーズに適した持続可能な交通体系の実現に向けて、沿線地域と議論をすることが必要であると認識。



詳細は、上記発表資料をご覧下さい。



国土交通省では、鉄道事業者と沿線地域が、沿線人口の減少・少子化やマイカーへの転移等による利用者の大幅な減少等の危機的な状況について意識を共有し、大量高速輸送機間としての鉄道の特性を評価した上で、利用者にとって利便性と持続性の高い地域公共交通を再構築を進めていくための環境を早急に整えるため、今年の2月から有識者会議を立ち上げ、検討を実施してきました。

その有識者会議の提言書が昨年の7月に取りまとめられ、その内容は当ブログでもご紹介したところです。


この中では、危機的な状況のローカル線区については、原則として沿線自治体が中心となって法定協議会を設けて検討を進めていくことが「基本原則」としています。

一方で、この「基本原則」がうまく機能しない地域(線区)については、「輸送密度1,000人未満」「広域的な調整が必要」な線区については、鉄道事業者や自治体の要請を受け、国が協議会を設置して協議を行うという仕組みが示されています。

この仕組みをもとに、令和5年国会において「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律」が提出され、今年4月21日に成立し、4月28日に公布されました。

改正後の地域公共交通活性化法では、上述「取りまとめ」で示された「協議会」について、「再構築協議会」という名称として、協議会の開催や調査・実証事業等に対して国が支援を行うものとしています。

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▲地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の一部を改正する法律の概要
(国土交通省Webサイト(https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/content/001632939.pdf)より引用、赤枠は管理人による。)


一昨日、10月1日より改正施行された地域公共交通活性化法ですが、この改正法に基づく「再構築協議会」について、本日、JR西日本が同社の芸備線一部区間について、協議会の設置を要請したものであります。



芸備線は、岡山県新見市の「備中神代駅」から広島県広島市の「広島駅」に至る、159.1kmの路線ですが、そのうち、備中神代〜備後庄原間の68.5kmが、今回「再構築協議会」設置を要請した対象区間となっています。

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▲芸備線の路線図
(JR西日本Webサイト(https://www.westjr.co.jp/press/article/items/231003_00_press_saikouchiku.pdf)より引用)


この芸備線、全区間を通しての2022年度の平均通過人員(輸送密度)は、1,170人/日ですが、つぶさに見ると、広島市を中心とした都市圏輸送を担う下深川〜広島間は8,529人である一方、広島都市圏を離れると輸送密度は大きく低下し、備後庄原〜三次間は327人/日、そして今回協議会設置要請の対象となった区間では、
備中神代〜東城:89人/日
東城〜備後落合:20人/日
備後落合〜備後庄原:75人/日


出典:2022年度区間別平均通過人員(輸送密度)について:JR西日本

となっており、もはや鉄道として維持する必要が無い程度にまで利用者数が落ち込んでいる実態があります。
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▲芸備線・三次〜備中神代間の利用状況
(JR西日本Webサイト(https://www.westjr.co.jp/press/article/items/231003_00_press_saikouchiku.pdf)より引用)
上記資料の輸送密度は、コロナ前の2019年度の数値となっていますが、コロナ前後で比較しても、2桁台の輸送密度であることから、状況が激変しているとはいえません。


駅別乗車人員についても、三次方面への利用者もある備後庄原を除き、いずれも40名に満たない利用者数であります。
過去30年間のトレンドで見ても、本区間の輸送密度は、1990年度は387人/日だたものが、2019年には48人/日と、この30年で約10分の1にまで激減しています。
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▲駅別乗車人員と、輸送密度の推移
(JR西日本Webサイト(https://www.westjr.co.jp/press/article/items/231003_00_press_saikouchiku.pdf)より引用)
沿線人口の減少をはるかに上回るスピードでの利用者数の減少が明らかです。



このような、もはや鉄道として維持する必要に疑問符さえもつく状況ではありましたが、JR西日本では路線ネットワークの一部として運営を続けてきたものの、新型コロナウイルス感染症を契機に都市部・高速鉄道でさえも利用者が激減し、事業者の経営そのものが深刻な状況に陥った中、JR西日本でもこの芸備線について、沿線自治体との話し合いを続けてきました。

しかし、昨年11月にJR西日本からの申し出のあった「交通体系に関する議論」を検討会議で扱わない旨が決定したことを契機に、国へ検討会設置の検討開始の相談を行い、今年に入ってからの「ヒアリング」などを経て、本日「再構築協議会」の設置要請に至ったとのことです。
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▲芸備線・備中神代〜備後庄原間を巡るこれまでの議論の経過
(JR西日本Webサイト(https://www.westjr.co.jp/press/article/items/231003_00_press_saikouchiku.pdf)より引用)




以上、JR西日本・芸備線の備中神代〜備後庄原間の状況と、「再構築協議会」設置要請の流れについて、雑駁にまとめてみました。

地域公共交通活性化法の改正後、3日目にして「再構築協議会」の設置要請がなされたことは、各メディアでも大きく注目されました。
ここでは列挙しませんが、各テレビ・新聞等が大きく報じていたところから、その注目度が非常に高いことが分かります。

改めて上述の輸送実績を見ますと、普通の民間企業ではとうの昔に廃止・撤退してもおかしくない事業といえるでしょう。

ただ、鉄道という公共交通であること、またJR西日本については国鉄改革実施後の輸送需要の動向等を踏まえて、現に営業する路線の適切な維持に努めることが前提とされていることから、これほどまでに利用されない線区であっても、維持してきた、という経緯もあることは、この際理解しておきたいところです。

とはいえ、いくら「適切な維持」が求められるとあっても、民営化後30年で1/10に減少し、二桁台にまで落ち込んだ輸送密度では、もはや鉄道として維持すること自体が、社会的に求められていないのではないか、という疑念も当然湧きます。

一方で、沿線自治体にすれば、公共交通の代表格である「鉄道」を失うことは、例え利用者が僅少であったとしても、地域が見捨てられることになるのではないか、という懸念を完全に消し去ることができない以上、上述の「適切な維持」と相まって、「廃止反対」を唱え続けないといけないスタンスでもある、ともいえるでしょう。

もはや、鉄道事業者と沿線自治体のスタンスがすり合う余地が出てこない状況であることから、この線区に関して「再構築協議会」の設置要請に踏み切ることとなった、といえるのかな、と思います。


JR西日本の設置要請を受けて、協議会を設置し、「鉄道輸送の維持」あるいは「バス等への転換」について、協議が整えば、再構築方針を作成し、その方針を実施していくことになります。

協議開始から再構築方針の作成までの期間は、目安として「3年以内」という期間が示されています。
(参考)
「地域公共交通の活性化及び再生の促進に関する基本方針」の主な変更点について|国土交通省

今後3年程度で、この芸備線について、どのような結論が出て、そしてどのような方策が採られるのか。
改正後の地域公共交通活性化法で新設された「再構築協議会」がどのように機能していくのかのリーディングケースになるかと思いますので、当ブログでもその経過に注目していきたいと思います。




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