この4月から毎週日曜日、17時からNHK Eテレで放送されてきたテレビアニメ「響け!ユーフォニアム3」。
いよいよ明日(6月30日)が最終回となりますが、それを前にして、原作本の最新刊「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のみんなの話」が発売されました。

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響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のみんなの話 (宝島社文庫) [ 武田 綾乃 ]
響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のみんなの話 (宝島社文庫) [ 武田 綾乃 ]



本巻では、主人公の黄前久美子(おうまえ くみこ・ユーフォニアム)が3年生の時期を中心に、久美子や同級生の高坂麗奈(こうさか れいな・トランペット)、塚本秀一(つかもと しゅういち・トロンボーン)、下級生の久石奏(ひさいし かなで・ユーフォニアム)、剣崎梨々花(けんざき りりか・オーボエ)、そして3年生になって転校してきた黒江真由(くろえ まゆ・ユーフォニアム)などの面々による、この1年間(久美子3年生)のエピソードが詰まった短編集となっています。

以下、その内容をかいつまんでご紹介できればと思います。


【※ネタバレ注意】
以降は原作本の内容が記されている、すなわち「ネタバレ」となる内容です。
本書をまだ読んでいない方など、当作品についてのネタバレを望まない方は、他のページに移っていただきますようお願いいたします。












原作本の「久美子3年生」の学年のストーリーは、下記の「「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部 決意の最終楽章」の前編・後編で綴られており、今回の短編集は、そのストーリーを補完するもの、といえます。
(参考)





【久石奏と黒江真由の関係(開幕・スケルツァンド、幕間・アジタート、幕間・グラーヴェ、閉幕・パストラーレ)
上記「最終楽章」では、最終的に北宇治高校は吹奏楽コンクール全国大会金賞、そして全国大会ではユーフォニアムのソロは黄前久美子が演奏する、という、ある意味「有終の美」を飾ることができました。

一方、コンクールメンバーを選出するにあたり、大会毎(府大会、関西大会、全国大会の計3回)オーディションを行った結果、ユーフォニアム2年生の久石奏は、関西大会及び全国大会にはステージに立つことは叶いませんでした。

今回の「みんなの話」では、久石奏が、彼女を結果的にコンクールメンバーから追いやることとなった黒江真由をどう捉え、どう感じ、そして「全国大会金賞」を勝ち取った結果、久石奏が黒江真由の捉え方がどう変わったのかが、章を分けて、そして時系列(新学期、夏、全国大会終了、卒業時)で描かれています。

「決意の最終楽章」では、黄前久美子が主体で描かれた結果、黒江真由の立ち位置が結局どうなっていたのか、消化不良だったという感想もあったかと思いますが、今回の「みんなの話」では、それが久石奏を通じて明らかにされています。

本編「最終楽章」が最終ではありますが、少なくとも黒江真由に関しては「みんなの話」まで読むことで、ようやくストーリーの「最終」となったのでは?と感じました。

ずっと「黒江先輩」と呼んでいた久石奏が、最後に「真由先輩」と呼ぶようになったその変化、そしてその変化を彼女はどのように自分自身で理解したのかを、読み進めて確かめてみてはいかがでしょうか。



【新しい幹部を選ぶという仕事(九 新・幹部会議、十 旧・幹部会議)
上述のとおり、全国大会金賞の栄誉を勝ち取った北宇治高校吹奏楽部。
黄前久美子達、3年生はここで引退となりますが、そうなると次の部長等の幹部役職が誰になるのか、という話が必然的につきまといます。

主役が黄前久美子達であることを踏まえると、それ以降の北宇治高校の部員は脇役とならざるを得ないのは確かですが、一方で、北宇治高校吹奏楽部の引き継ぎとして、次年度の幹部役職を任命する仕事までが残っているのも確かです。

この「みんなの話」では、その新・幹部役職の選任の様子も描いています。
久美子(部長)、秀一(副部長)、麗奈(ドラムメジャー)の3名が悩みに悩んで選んだ幹部役職は、次のとおりでした。
部長:剣崎梨々花(オーボエ)
副部長:久石奏(ユーフォニアム)
ドラムメジャー:鈴木美玲(チューバ)

現幹部(久美子ら)の会話を元に決まっていった選任の経緯も描かれています。

まず鈴木美玲がドラムメジャーとして決めた一方、部長を誰にするのかで堂々巡りしてしまいます。
その後、久石奏を部長に、という意見が出た一方、奏と近い位置にあった久美子は「副部長ならアリ」(P150)と意見します。

そうなると、部長が誰か、ということになり名前が挙がったのが剣崎梨々花となりました。
本来梨々花は副部長等補佐の立場が向いている一方、奏をコントロール出来るのは梨々花しかいない、そしてこの2人ならカリスマ性を発揮する、という久美子の意見(P150)により、部長:梨々花、副部長:美玲となりました。

…何だか会社の人事異動を見ているようで、サラリーマン生活を長年送ってきた私に取ってもある意味身近なやり取りにも感じましたが、そんな経緯で発足した北宇治高校新体制は、ひょんなことから引退したはずの久美子達3年生と行動を共にする機会が出てきました。



【北宇治高校、沖縄へ(十一 未来への約束)
上記表紙の写真で、主役5名がアロハシャツを着ているカバーとなっていることからも分かるように、この「みんなの話」では、沖縄も舞台として登場します。
そしてその沖縄で、北宇治高校が演奏することになるわけですが、そこに引退したはずの久美子たちも演奏する羽目となりました。

これは、沖縄にオープンするテーマパークのイベントに演奏で出演することとなった一方、現役生だけでなく卒業生(久美子らの学年)でも同イベントの別の場所でも演奏して欲しい、との依頼があったことによるものです。

丁度吹奏楽部の卒業旅行を計画していたところに、このような話が舞い込んできた結果、卒業旅行を兼ねた演奏会が沖縄で実現した次第、ということです。


全国金賞を獲得した北宇治高校のメンバーでありますが、一方で引退後の受験勉強によるブランクが大きく、それを回復させるのに奮闘する3年生。
一方で、新体制の2年生・1年生にも問題が生じていますが、新部長の梨々花や副部長の奏が対処することにより成長していく姿も同時に描かれており、新体制のその後が気になる読者にとっても楽しみな内容となっています。

ある意味「作者からのボーナスプレゼント」とも感じた最後の仕掛け、楽しませていただきました。



【その他の深いエピソードも満載】
他にも以下のようなエピソードが詰まった一冊となっています。
・吉川優子(トランペット)、中川夏紀(ユーフォニアム)、鎧塚みぞれ(オーボエ)、傘木希美(フルート)の4人の卒業生による、いつもどおり?の雰囲気の和歌山へのドライブ旅行(五 ドライブ)
・父親の仕事の都合で転校を繰り返してきた黒江真由の、北宇治に来るまでのストーリー(七 賞味期限が切れている)
・全国大会終了後の滝先生、松本先生、橋本先生、新山先生の4人による飲み会(八 大人の肴)


「決意の最終楽章」の補完、とならざるを得ないのですが、それでも中身は十分詰まったストーリー、主人公である黄前久美子ら以外の登場人物にも、深いストーリーを持たせた内容となっており、原作を読んできた方々には、きっと満足できる作品なのではないか、と思いました。



明日が最終回となるテレビアニメ「響け!ユーフォニアム3」は、既に原作本と異なる展開となっており、ファンの中でも色々な意見が出ています。
私自身としては、「二倍楽しめる」と肯定的な展開と感じていますが、明日の最終回、どのような結果が、どのように描かれるのか、原作と異なる展開となっているだけに、こちらも非常に楽しみなところもあります。

2015年のアニメ放送開始から、足かけ9年応援してきた「響け!ユーフォニアム」というコンテンツ。
明日でアニメ最終回という一区切りかも知れませんが、その残してきた財産は計り知れないものであると感じていますし、それはアニメ終了後も引き続き、多くのファンに引き継がれると思います。

そんなことを考えながら、明日のアニメ最終回を見つつ、7月にも予定されている京阪電鉄のコラボ企画も楽しみにしたいですね。