先日、徳島方面へ別の用事があり、そのついで(の割にはかなり遠かったのですが)で、阿佐海岸鉄道に乗車してきました。
この阿佐海岸鉄道、既にこのブログでもご紹介しているように、2021年12月より、線路と道路の両方を走ることのできる車両、「DMV」(デュアル・モード・ヴィークル)が導入されています。
(参考)
DMV運行開始から早いもので既に2年半が経過していますが、今回ようやくこの「線路と道路の両方を走れる乗り物」に乗ることができましたので、その様子をご紹介したいと思います。
【DMVに乗ってみる】
まずは、道の駅宍喰温泉から宍喰駅まで、DMVに乗ってみることにしました。
▲道の駅宍喰温泉 外観
▲バス停。
DMV(バスモード)だけでなく、徳島バス南部(牟岐〜宍喰〜甲浦)や海陽町営バス、そして徳島バスが運行する大阪方面への徳島バスもここから発着しています。
▲阿佐海岸鉄道DMVの時刻表。
平日は8往復、土休日は11往復(うち1往復は室戸発着、宍喰温泉は経由せず)ですが、予約状況などに応じて臨時便も運行されているようです。
▲「道の駅宍喰温泉」に隣接する「ホテルリビエラししくい」。
▲道の駅宍喰温泉の施設内の様子。
DMV紹介コーナーもあり、DMVとかつての阿佐海岸鉄道車両の模型が走るジオラマもありました。
12時50分過ぎ、阿波海南駅方面から緑色のマイクロバスがやってきました。
これがあのDMV車両であります。
車両形式名「DMV93形」という車両で、今回乗車するのは、「すだちの風」という愛称が付けられた「DMV932」号であります。
外観は、ボンネットがついている点が、他のマイクロバスと大きく異なりますが、一方車内は通常のマイクロバスと変わりません。
DMVは予約制(空席があれば予約なしでも可能)となっており、私も予約した座席に着席します。
12時58分、道の駅宍喰温泉を発車します。
▲バスモード乗車中の車窓。
これだけ見れば、普通のマイクロバスから見た車窓です。
国道55号を南下し、県境を越えて高知県東洋町の「海の駅東洋町」を経由し、東洋町甲浦地区の集落に入っていきます。
そして甲浦駅に到着、ここで客扱いをしてから、高架線上にある「甲浦駅モードインターチェン」に登っていきます。
ここで、「バスモード」から「鉄道モード」へ切り替えを行います。
その様子を車内から動画で撮影してみました。
モードチェンジが始まると、阿波踊りのような音楽が流れますが、これは下記記事によりますと、沿線地元・徳島県海陽町の郷土芸能「海南太鼓」の演奏による、DMVのために作られた曲ということです。
(参考)
こんなバス知ってる? DMVを体験![前編] | バスギアターミナル
そして、十数秒経って「フィニッシュ」という自動音声でモードチェンジは終了します。
この「フィニッシュ」の声、ちょっと気が抜けたユルい声が聞き所、といったところでしょうか。
是非上記の動画をご覧になっていただければと思います。
モードチェンジ後、鉄道車両に「変身」したDMV932は阿波海南方面へ向かって走り出します。
エンジンを吹かして加速するのは、マイクロバスと変わりませんが、大きく違うのは、床下から聞こえてくるジョイント音。
そしてこのジョイント音、今では実際に乗車して体験することも貴重な「2軸」の車輪で、「ガタン、ガタン」と、通常の鉄道車両とは違うテンポを刻んでいきます。
貨車としては、ワム80000形等あまたの例がある二軸車両ですが、こと旅客車両となれば、近年では樽見鉄道「ハイモ180」や北条鉄道「フラワ1985」、三木鉄道「ミキ180」あたりくらいしか例がありませんでした。
これらの車両も既に営業用としては引退し、動態保存されている中で、まさかこの時代にDMVという形で2軸車に乗れるとは想像だにできませんでした。
鉄道モードで乗車すること約6分、次の宍喰駅で下車します。
宍喰駅に近づくと、DMV導入まで運行されていた普通鉄道車両「ASA-300形」が留置されているのが見えました。
▲かつて阿佐海岸鉄道で活躍したASA-301の側を通過します。
宍喰駅に到着します。
▲宍喰駅に停車中のDMV932号
宍喰駅を発車する様子も、動画で記録しておきました。
マイクロバスがレールの上を走っていくという、まさにここでしか見られない光景は、それだけでも確かに「観光資源」といえるのかな、とも感じました。
▲レール上を走り去っていくDMV932。
列車を見送った後、降り立った宍喰駅の様子を観察してみます。
DMV93形は、乗降扉が進行方向左側のみのため、鉄道線上のホームは線路を挟んで両側に設置されています。
また、かつて普通鉄道車両で使用してたホームは、乗降用としては現在使用されていません。
階段を降りて、改札口に向かいます。
▲「世界初」DMV体験PRのポスター
▲宍喰駅改札口まわり。
有人駅のため、入場券や乗車券などが購入可能です。
▲宍喰駅外観。
ここ宍喰駅から、乗車した道の駅宍喰温泉までは、宍喰地区の街中を歩いて10分ほどで到着します。
時間の限られた予定でDMV体験乗車をするには、お手軽なルートといえるでしょう。
【モードチェンジを外から見てみる(阿波海南駅)】
道の駅宍喰温泉から車に乗車し、徳島市内方面に帰るついでに、丁度タイミングが合ったので、阿波海南駅に立ち寄り、今度はモードチェンジを外から観察してみることにしました。
▲阿波海南駅外観。
海南駅前交流館(真ん中の建物)を挟み、JR四国牟岐線と阿佐海岸鉄道の乗り場があります。
阿波海南駅14時発の便が到着します。
客扱いをした後、モードインターチェンジに入ります。
甲浦駅で見たのと同様、鉄道モードに切り替わった後、運転士が車外に出てモードチェンジを確認した後、今度は甲浦方面に向けて発車していきました。
一連の様子を、動画でも撮影してみました。
私が阿佐海岸鉄道に乗車したのは、同路線開業後2年ほどが経過した、1994年7月でした。
当時の記録を見ますと、JR四国所属のキハ40形に乗車して完乗していました。
それから丁度25年後の今年、再びこの阿佐海岸鉄道に乗車しましたが、まさかこの路線にバス型の車両が走ることになるとは、初乗車の際には勿論ですが想像だにできませんでした。
この阿佐海岸鉄道の走る徳島県南部・高知県東部ですが、元より人口が少ないエリアでありますが、沿線自治体である徳島県海陽町、高知県東洋町の人口はともに同線開業後から更に減少しており、海陽町は3分の2、東洋町に至っては半減というスピードで減少しています。
(いずれも、1995年と2020年の国勢調査人口より比較)
それを如実に表しているのが、同線の定期旅客数で、下記「第6回DMV導入協議会」資料によれば、開業当初(1992年度)7万8千人いた定期旅客数は、DMV導入直前の2019年度は1,440名(1日あたり4名程度)と、開業当時のわずか1.8%(50分の1)までに減少していました。
(参考)
第6回「阿佐東線DMV導入協議会」資料|阿佐海岸鉄道
一方定期外旅客はお遍路利用などの取り込みにより、DMV切り替え前は5万人程度の利用者を確保していました。
そんな状況の中、地元利用だけでの維持は困難であることから、沿線外からの集客を念頭に置き、なおかつ維持コストが低減できる方法、そして更には当地域で課題となる「南海トラフ地震」による津波被害からの交通機能維持という3つの「効果」を兼ね備えた路線維持方法として、選ばれたのが、この「DMV」となりました。
そもそもこのDMVですが、今から20年以上前にJR北海道が開発に着手し、その後同社で試験的営業運転を実施し、同社の利用が少ない線区における鉄道路線維持の一つの方法として検討がなされてきました。
JR北海道での開発が進むにつれ、他の地方鉄道でも導入を検討する動きもあり、このブログでも下記記事において、その事例をいくつがご紹介していました。
【JR北海道・三木鉄道】
【わたらせ渓谷鉄道】
【南阿蘇鉄道】
【山形鉄道】
このブログでご紹介しただけでも4事業者でDMV導入検討の動きがあっったことから、実際は他にもあったのかも知れませんが、いずれも実現に至らず、当のJR北海道も2013年頃に相次いだ列車火災等への対応に伴う安全対策への資源投入のため、DMV開発を2014年に中止することとしました。
(参考)
JR北海道「DMV」導入断念 全国へ広がる波紋 | 乗りものニュース
このように、2014年頃にはDMV自体が頓挫するのでは?と思われた中、その後も検討を重ねて、実現に至った唯一の例が、ここ阿佐海岸鉄道となりました。
DMVについては、鉄道とバスと両方で走れるモードが実現できる一方、少ない定員となるため大量輸送に対応できない、またそれに対応するようにバス路線でも代替可能な輸送量であることから、積極的にDMVを採用するメリットは、ほとんどの鉄道路線では見いだせないものとなってしまいました。
しかしここ、阿佐海岸鉄道では、上述のとおり「定期旅客が僅少」であることに加え、「防災対策」として海岸沿いの道路以外の輸送ルートを確保する必要性、そして地域外からの「観光客誘客のための目玉」が求められており、それらの目的に合致するのが、このDMVだった、というわけです。
DMV開業から2年半が経過し、流石に開業当初の予約必須である状況ではなくなっており、この日も私の他の利用者は数名といったところでした。
ただ、平日の一部便でも多客のための増発が実施されており、DMV導入効果はまだ続いているようにも感じました。
一方で、線路と道路も走れる物珍しさは、初めて見る人にとっては新鮮かも知れませんが、それをリピーターとして育てるにはまだハードルが高いようにも感じます。
まだ導入効果が続いている今のうち、持続的に観光客を引きつけるための施策を考えていく必要があるのかな、とも感じました。
そういう意味では、四国にしか無い観光資源である「お遍路」を取り込むというのは一つのアプローチであり、阿佐海岸鉄道を結ぶルートとしては、第二十三番「薬王寺」(徳島県海部郡美波町、最寄り駅はJR牟岐線・日和佐駅)と第二十四番「最御崎寺」(高知県室戸市、最寄りバス停は高知東部交通・室戸岬)との間が考えられますので、この区間の全部、または一部をDMV貸切利用というのは考えられそうです。
また、現在世界唯一の鉄道・バスモードをじっくり見てもらうためのファン向け見学会や、営業運転から離脱している普通鉄道車両の見学・撮影といったことも考えられそうです。
そして、広域から観光目的の利用者を集客するのであれば、JR牟岐線からのアクセスも課題といえます。
この3月ダイヤ改正で、土休日に運行する室戸岬行きとの接続が改善されていますが、一方で牟岐線の特急列車との接続は、早朝の海部発徳島行き「むろと2号」(牟岐から特急)だけで、観光利用には難しい面があります。
他線区でも運行されている「ものがたり列車」が牟岐線でも運行され、終点の阿波海南駅でDMVと接続する…というのであれば、注目度もアップし、実際の誘客にも貢献するものと思われますが、そもそも一連の「ものがたり列車」が運行されて久しい中、牟岐線への投入が無いという状況では、なかなか厳しいものもあるかも知れません。
以上、沿線外の素人が適当にアイデアを出してみましたが、阿佐海岸鉄道の状況を分析し、鉄道維持の方法として「DMV」を選択し、それを実現したのは、素直に素晴らしいと思いますので、このDMVが当初の目的どおりに観光客を誘客し、地域経済の活性化に繋がるツールとして機能することを願いたいと思います。
▲道の駅宍喰温泉に到着したDMV933号「阿佐海岸維新」号。
この日は団体利用もあったようで、この933号が臨時便として充当されていました。
地元の住民利用が少ないのはデータ上でも明らかで、また、実際に乗車しても感じました。
そのため、このような利用を積み上げて観光客の利用を増やし、地域の経済活性化に寄与することが、阿佐海岸鉄道の地域における存在意義ではないか、と思いました。
▲「折角だから何かお土産を…」ということで、「道の駅宍喰温泉」で購入したのが、この「DMVクッキーセット」。
実車と同様、3種類のバリエーションがありました。
まだ食していないのですが、お土産で持って帰ると印象にも残るのではないか、とも感じました。
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