JR九州の子会社、「JR九州高速船」では、博多〜釜山間の高速船「クイーンビートル」について、運航再開を断念したことを発表しました。

【お詫び】安全確保に関する重大な問題の発生について|JR九州高速船株式会社

概要としては、2023年、2024年に度重なる船体への浸水に対して適正な対応を取らず、関係機関への報告を怠っていた上に、航海日誌等の記録を適正に作成せず、加えて浸水警報のセンサーの位置をずらすなど、安全を軽視する運航を続けていました

一連の対応に問題があったことから、今年8月13日から当面の間運休となり、その間国土交通大臣への改善報告書の提出、第三者委員会からの調査報告書受領とそれに伴う再発防止策について発表していました。

その後、クイーンビートルの再開に向けて、抜本的な対策である船体への浸水のハード対策を検討していましたが、検討の結果浸水のリスクは完全に払拭できないことから、今回、船舶事業から撤退することを発表したものです。

一連の経緯は、下記Webサイトより発表資料が掲載されていますので、併せてご紹介します。
(参考)
お詫び(JR九州高速船株式会社における安全確保に関する重大な問題の発生について)



JR九州の高速船事業は、ジェットフォイル「ビートル」を投入して民営化間もない頃から手がけられ、博多から平戸、長崎オランダ村(後のハウステンボス)から開始し、間もなく博多〜釜山(韓国)への国際航路を就航させました。

当初は厳しい経営状況のようでしたが、日韓間の観光客の増加により利用者も拡大し、安定した航路としての地位を築きました。

一方船舶に関しては、「ビートル」3隻の老朽化もあってか、その代替として三胴船「クイーンビートル」1隻により代替となりましたが、丁度新型コロナウイルス感染症の影響で海外との需要が壊滅した時期だったこともあり、まともに営業運航に就くこともできませんでした。

その後、2022年にようやく「クイーンビートル」による博多〜釜山間で就航されたものの、上述のとおり度重なる船体への浸水と、そのトラブルに対する不適切な対応により、運航休止、そして撤退となりました。



国鉄からJRに民営化し、JRグループ各社が様々な関連事業を手がけるなか、韓国に近いという地の利を活かし、また、かつて連絡船を運航していたノウハウを持つJRグループ他社の存在もあったことなどを踏まえると、高速船事業に進出したJR九州の判断は、その後の旺盛な利用状況を見ると、先見の明があったといえます。

一方で、近年では、三胴船という国内での運航実績が無い「クイーンビートル」を導入する一方、今まで実績のあった「ジェットフォイル」を全て売却するなど、結果論とはいえ首をかしげたくなるような判断もありましたが、その新規に投入した三胴船が引き起こしたトラブルが原因で撤退というのも、これまた結果論ではありますが、皮肉なところはあります。

船舶での浸水が決してあってはならないことは、2022年4月に発生した知床遊覧船沈没事故の原因であったことが記憶に新しいように、海運に携わる人々でなくとも、当然の理であることは論を俟たないものでありましょう。

その浸水事象の報告を行わないばかりか、事もあろうに浸水センサーの位置をずらす隠蔽工作を行ったという事実は、上記の知床遊覧船沈没事故のみならず、これまでの数々の海難事故から導き出された海上輸送における安全をあまりにも軽視している、と評するほか無いわけで、今回の撤退は当然であるとしか言いようがないでしょう。

撤退の理由として、仮にクイーンビートルを運航再開させたとしても、浸水の原因となるクラックの発生をリスクを完全に回避できないこととしていますが、仮にリスクを回避できたとしても、これだけ杜撰な安全管理をしていた事業者の航路に、進んで乗ろうとどれほどの人が考えただろうか、と思えるほど、信頼を失墜させた責任は重いといえます。

しかもこれが、JR九州という国内を代表する鉄道事業者のグループ企業であり、かつ、30年以上に渡り船舶事業を実施してきた事業者が引き起こした不正、というところが一体どういうことなのか、と唖然としているところであります。

決して「完全民営化したから安全軽視となった」と思いたくはありませんが、仮にそうであったとしても、また無かったとしても、船舶事業の撤退だけで済ますことなく、親会社含めグループ全社で安全輸送に対する姿勢を一から見直さないといけないのではないか、とも感じました。


ともあれ、30年以上に渡り日韓間を結んできた航路が、このような不祥事で幕を下ろす事は、あまりにも情けない気持ちで一杯な訳ですが、他の船舶事業者を含め、公共交通に関わる全ての関係者が、他山の石として、今一度安全に対する意識を再確認していただくしかないのかな、とも感じたニュースでありました。

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▲JR九州高速船のWebサイト画像(記事執筆現在、同Webサイト(https://www.jrbeetle.com)より引用。)
既に、一連の安全確保に関する問題に関する発表資料以外は閲覧ができない状態となっており、かつて閲覧できた「クイーンビートル」の船舶紹介なども勿論閲覧できません。
JR九州高速船は、今後会社清算の予定とのことですので、いずれこのWebサイトも閲覧できなくなるものと思われますので、記録という意味で引用させていただきました。