阪和線の沿線から

阪和線沿線に住まう管理人による、鉄道やバスなどのブログ。

鉄道全般の話題

「JR東日本 脱・鉄道の成長戦略」を読む(枝久保達也著・河出書房)

当ブログでは、管理人が鉄道関係の書籍や雑誌を、自ら実際に購入して読んでみて、その感想などを記していますが、本日ご紹介する本はこちらです。

20240829_204002_R

JR東日本 脱・鉄道の成長戦略 (KAWADE夢新書) [ 枝久保 達也 ]
JR東日本 脱・鉄道の成長戦略 (KAWADE夢新書) [ 枝久保 達也 ]

JR東日本 脱・鉄道の成長戦略 (KAWADE夢新書 S 454)
枝久保 達也
河出書房新社
2024-08-27





国鉄の分割・民営化により生まれた、日本最大の鉄道事業者である「JR東日本」。
会社設立から35年以上を経て、これまでどのような道を歩み、そして今後どのような成長戦略を描いていくのか。
埼玉県出身で、東京地下鉄(東京メトロ)の広報、マーケティング・リサーチ業務を経て、現在は鉄道ジャーナリストとして執筆活動等を行う(本書著者紹介より)著者が記した一冊であります。


国鉄の分割・民営化で誕生したJR各社では、国鉄時代には制約が多かった関連事業をいかに増やしていくのか、という点が重要な経営課題であったかと思います。
そのために、ヒト・モノ・カネを投入して様々な新規事業を立ち上げてきましたが、上手くいくものもあればそうでないものもあったのは、様々な事例で我々も見聞きしたところ、といえます。

本書では、この関連事業の立ち上げから現在に至るまでの歩みを丁寧に記しています。
特に首都圏という人口が多い地域、そしてその中でも移動で人が集まる「駅」を拠点とした鉄道事業の関連でありますので、コンビニや駅ビル、ホテル、そしてカードといった、駅拠点の関連事業が今に至って柱となっていますが、その関連事業が育っていく過程を、資料や取材を通じて丹念に書き記している点では、貴重な記録になるのではないか、と感じました。

特徴を感じたのは、自前での関連事業育成でありまして、コンビニについては、当初は各社が独自ブランドで手がけつつも、現在は大手コンビニに転換した会社も多い中、JR東日本は「NEWDAYS」の店舗を今でも数多く運営していますし、クレジットカードについても、他社が既存クレジットカード各社との提携で手がけたのに対し、JR東日本では自らがクレジットカード業務を担っていたりと、いわゆる「内製」の事例が多いな、と感じました。

一方で、本書では地方路線の今後のありかたについては、あまりボリュームを割いておらず、現状までの動きをまとめているに留めていますが、「JR東日本」という巨大企業が、国鉄改革からリーマンショック、東日本大震災、そしてコロナ禍を経てどのように変化し、そしてどのような方向に向かおうとしているのかが分かる一冊といえるでしょう。


著者も最後に記しているように、民営化後の20年間については、社史が編纂されたり、初代、二代目社長などが回顧録を記していることから、歴史的資料が豊富な一方、その後についてはまとまったものがみあたりません。

タイトルの「脱・鉄道の成長戦略」は、そのまま鉄道以外の関連事業をいかに育てていくのか、という意味であることを考えると、本書はそういった歴史を体系的にまとめたものと、と評価できるのではないか、と感じましたので、是非お読みいただければと思います。




↓↓鉄道系ブログ・ニュースポータルサイト「鉄道コム」はこちらをクリック↓↓
鉄道コム

鉄道ジャーナル2024年10月号「特集 有料着席サービス」を読む

このブログで適宜ご紹介している、鉄道関係の書籍・雑誌のご紹介。
今回の記事では、鉄道ジャーナル2024年10月号「特集 有料着席サービス」をご紹介したいと思います。

20240829_204917

鉄道ジャーナル2024年10月号
鉄道ジャーナル2024年10月号



このブログでも、主に関西や首都圏で増えている「有料着席サービス」のニュース記事をご紹介していますが、近年では、ここ関西圏でも、京阪電鉄「プレミアムシート」、JR西日本「Aシート」「うれしート」「らくラク」シリーズ、そして阪急電鉄「PRiVACE(プライベース)」と、一気に増えてきた感があります。

今回の鉄道ジャーナルの特集記事では、これら近年増えてきた有料着席サービスについて、関西地区からは阪急「プライベース」とJR西日本「うれしート」、首都圏からは小田急「ロマンスカー」と東急「Q SEAT」を取り上げています。


俊逸なのは伊原薫さんの「うれしート」関連記事で、流石関西地区在住の鉄道ライターとして、「うれしート」設定列車に実乗し、予約の埋まり具合や途中駅(久宝寺)からの利用、そしておおさか東線経由「うれしート」列車の利用の実態(新幹線接続)等に触れられており、サービス開始から間もなく1年になろうとしている「うれしート」の、実態を分かりやすくレポートされていました。

記事中では「他線区での展開にも期待」(P59)として、今後の展開に触れている中で、「乗車時間が比較的短く、特急列車の設定が少ない(または全くない)山陰本線の京都口や奈良線などでは、導入へのハードルが低い「うれしート」のような列車が登場するかもしれない」と記されていました。

奇しくも本号発売日の翌日に、下記のとおりJR西日本より「うれしート」が奈良線にも拡大することが発表され、伊原さんの予想が翌日に見事に当たるという偶然も起きました。
(参考)


「うれしート」の奈良線への拡大は、私自身も予想はしていたことでもあり、大方の予想どおり、そしてニーズどおりの設定となりましたが、今後更なる展開としては、やはり本稿でも触れられているように、嵯峨野線(山陰本線京都口)での設定も大いに考えられそうな気もしました。


一方で、今回の特集記事の中には、「「乗らない」着席サービスを考える」(柴田東吾氏)という、何やら考えさせられるタイトルの記事もありました。

文字通り、比較的利用が低い各社の有料着席サービスについて触れているものですが、筆者自身最後に「これまで触れてきた話は娯楽の範疇に過ぎない」(P55)とわざわざ断っていることからも分かるように、ぱっと見利用率が低いように見える各社の有料着席サービスについて、あまり現実性を考えない、誤解を恐れず言えば「妄想」の範囲内での改善策を記しているとしか受け取れない記事となっていました。

一例を挙げれば、泉北高速鉄道の「泉北ライナー」もやり玉に挙げられており(P54〜P55)、ここでは、「「泉北ライナー」を減便して「ラピート」の増発に振り向けた方が良いのでは?と思うこともある」(P54〜P55)と、夕方の「泉北ライナー」を不振な有料着席サービスとし、そのリソースを「ラピート」に振り向ける提案がされています。

このアイデアの元は、2022年11月から2023年9月まで一部の「泉北ライナー」に「ラピート」50000系が充当された事例を引き合いにしているようですが、もっともこの代走が起こった発端は、2022年5月に発生した「こうや」「りんかん」向け30000系1編成の長期間の使用不能が発端であり、日々の運用で「ラピート」と「泉北ライナー」を入れ替えるのは、設備的にも営業的にも難しいのではないか、と思われます。
(参考)


もっとも、上述で筆者自らが断っているように、「娯楽の範疇」での記事ですので、あまり真面目に突っ込むのも野暮、ということかも知れません。
しかし仮に「鉄道の将来を考える専門情報誌」(表紙)と銘打っている月刊誌でありますから、「利用が思わしくない有料着席サービス」という、視点はむしろ良い所を突いているだけに、きっちり調査・分析した記事を載せていただければよかったのになあ、と思う次第です。


ともあれ、近年の各社の導入度合いをみれば、いずれかの鉄道雑誌で遠からず特集記事が組まれるのでは?と思っていた「有料着席サービス」。
今回は「鉄道ジャーナル」での記事でしたが、他の鉄道雑誌ではどのような視点から特集記事が組まれるのか、そういった点も今後の楽しみにしたいな、と思いました。



↓↓鉄道系ブログ・ニュースポータルサイト「鉄道コム」はこちらをクリック↓↓
鉄道コム

交通法規研究会「列車の運行不能 遅延・運休・事故 きっぷの払いもどしQ&A」を読む

当ブログでは、鉄道をはじめとした公共交通関係の書籍や雑誌をご紹介していますが、今回ご紹介するのは、これまでにも度々ご紹介してきた「交通法規研究会」さんの新刊「列車の運行不能 遅延・運休・事故 きっぷの払いもどしQ&A」です。

20240814_222536






当ブログではこれまで、きっぷの「払いもどし」や「区間変更」など、何か事情が無ければ利用者が体験することが無いであろう取扱いについて、根拠規程や実例などを交えて、分かりやすく解説しており、私自身も大変勉強になる同人誌シリーズであると感じています。

今回は、その「レアケース」の中でも最たるものと考えられる、列車の「遅延」「運休」「事故」など、列車が計画どおりの運行が不能になった際の払いもどし等について、一問一答系式で分かりやすく、かつ体系的に記されています。


一口に「運行不能時の払いもどし」といっても、既に列車に乗っているか否かによって、可能な取扱いは大きく違います。
比較的遭遇するのは「乗車前」で、この場合は基本的に「手数料無しで全額払いもどし」となります。
私自身も下記記事でご紹介したように、南海トラフ臨時情報(巨大地震注意)」に伴い運休となった特急「くろしお」の特急券を、手数料無しで払いもどした体験談をご紹介しました。
(参考)


これに対し、列車乗車中に運行不能な事象に遭遇した場合は、乗車券、あるいは特急列車等のそれぞれについての対応方法があります。

これらには旅客が選択できるものもあれば、その時々に応じて定められているものもあるので、詳細は是非とも本書を手に取って、一読していただければ、大変参考になると思います。


手持ちのJTB時刻表では、「事故などの列車の取扱い」として、列車運行不能の場合の「無手数料払いもどし」「後続の特急列車等の乗車」「無賃送還」「有効期間の延長」、列車遅延時の「特急料金等払いもどし」「列車不接続により無賃送還・取り止め」といった内容が簡単に書かれている程度ですが、実際の取扱いは、同人誌が一冊出来上がるほどに奥が深いものだ、というのを実感できるのではないのでしょうか。


特に旅行中の払いもどし等の取り扱いは、遭遇するケースが多くないことに加え、旅行先あるいは列車に乗車中に遭遇すること、そして近年激甚災害が増加していることから考えると、どこか旅行する際には本書を携帯しておくと、いざという時に大いに役立つ内容といえます。

とはいえ毎回の旅行に常に持ち歩くのもなかなか大変なので、時間のあるときに本書を熟読しておくのが一番良いのかな、とも思いますが、ともあれ「きっぷ」「制度」系の鉄道ファンだけでなく、多くの鉄道ファンにとっても、運行不能な事象に遭遇しないとは限りませんので、是非とも手においていただきたい一冊と感じました。


▼本書の購入サイトはこちら。


「日本鉄道廃線史」を読む(中公新書・小牟田哲彦著)

随分前に読了していたのですが、感想をブログに掲載しないまま2ヶ月を過ぎようとしていて、記憶もちょっと曖昧になってきたので、粗々でも書いておこうと思います。

「日本鉄道廃線史」という、中公新書の本を読んでみました。

20240623_162818

日本鉄道廃線史 消えた鉄路の跡を行く (中公新書 2810) [ 小牟田哲彦 ]
日本鉄道廃線史 消えた鉄路の跡を行く (中公新書 2810) [ 小牟田哲彦 ]




旅客輸送や貨物輸送といった、ある一定の目的のために建設された鉄道ですが、その後の事情の変化により廃線となってきましたが、その廃線を法規的に定義し、そして「戦時」「国鉄赤字83線」「国鉄再建法」「災害」といった、廃止となった主な要因別に、個別の事例も交えて分析し、そして昨今各地で議論となっている、沿線人口の減少等での利用者減により、持続可能な交通体系として、鉄道を維持することが妥当なのかどうか、という課題に結びつけています。


これまで様々な路線で廃止となりましたが、近年は利用者の減少による廃止が多い一方、かつては戦争による休廃止もありましたが、近年は激甚化する災害の影響により、復旧しても大量輸送を特性とする鉄道が、地域の公共交通機関としての役割を果たすことができるのかどうか、という観点から、廃止・代替バス及びBRT変換という方法も取られています。

ここ近年、JR各社(東海除く)では、各線区の輸送密度を公表し、また輸送密度が一定以下で自社単独での持続可能が厳しい線区については、その収支状況も公表しています。
これらの線区では、実際に利用者が少なく、バス転換を行った方が社会便益的にも良いのではないか、と思えるケースもあれば、ある一定の長距離移動手段としての役割を担っているケースもあることから、一概に廃止だの存続だのを断じることは難しいのではないか、と思います。

ただ、これまで過去に、鉄道路線がどのような経緯で、どのような手続きにより廃止となっていたのかは、今後の地域鉄道の動きを見ていく上で、しっかりと知っておくべきだと思いますし、その一助に本書はなるのではないか、と思います。


個人的な感想を記しますと、廃線に関する法規的分析及び過去の事例をまとめた第4章までの内容は、客観的な分析もあり、納得するところも多かったのですが、一方現在進行形で存廃の議論が進んでいる第5章及び第6章については、廃止に向かう線区の現状を憂う著者の心情が現れる箇所も見受けられたりと、地域交通の在り方を考える上では、若干フィルターが混ざっているようにも感じました。

最後の例で挙げられた「観光鉄道」についても、地域交通を維持する上で、鉄道を残すべきかどうか、という議論とは、相容れない部分があるかと感じていますので、観光鉄道を鉄道存続の事例として挙げているところには、個人的に違和感も覚えるのですが、ただ、廃線の定義と経緯を体系的に整理している、という点では、本書を一読する価値はあるのかな、と感じました。




↓↓鉄道系ブログ・ニュースポータルサイト「鉄道コム」はこちらをクリック↓↓
鉄道コム

鉄道ピクトリアル2024年8月号「【特集】近畿日本鉄道南大阪・吉野線」を読む

このブログでは気になる鉄道雑誌・書籍を管理人が実際に読んだ上で、感想などを書いています。
今回ご紹介する鉄道雑誌はこちらです。
20240621_214022_R
鉄道ピクトリアル 2024年 8月号 [雑誌]
鉄道ピクトリアル 2024年 8月号 [雑誌]



鉄道ピクトリアル2024年8月号。
特集は「近畿日本鉄道(近鉄)南大阪・吉野線」です。

鉄道ピクトリアルの近鉄特集としては、2018年12月臨時増刊号で「近畿日本鉄道」、2021年9月臨時増刊号で「近鉄特急」が発行されています。
(参考)



一方、民鉄全国一の路線規模を誇る近鉄では、これらの全社的な特集だけではどうしてもカバーしきれない部分がありますが、今回の特異臭では、そういった補完を含めて企画されたもの、とのことです。
その「補完」ともいうべき第一回目が、この「南大阪・吉野線」です。


既にご存じの方も多いように、近鉄南大阪・吉野線は、他の近鉄各線とは線路幅が異なることから、これらの2路線に道明寺線、御所線、長野線の5線を運営する組織として、「天王寺営業局」が長らく設けられていました(2023年6月まで)。

歴史的経緯についても、現在の大阪線及び橿原線とは異なり、現在のJR大和路線・柏原駅から河内長野までを結ぶことを目的に開業した「河陽鉄道」(のちの「河南鉄道」)、河南鉄道から東西に分かれて大阪阿部野橋〜橿原神宮前を結んだ「大阪鉄道」、吉野口でJR和歌山線と接続し吉野方面からの貨物輸送を目的に建設され、後に橿原神宮前まで延伸した「吉野鉄道」、そして大阪鉄道から分かれて御所へ、そしてその先五条までの延伸計画もあった「南和電気鉄道」の5社を源流としています。
(注:路線名及び駅名は現在のものを表記しています。)


運行的にも、そして歴史的にも、他の近鉄各線とは独立した存在であるこの「南大阪・吉野線」ですので、他の近鉄各線とは違った面が色々あり、それを網羅した一冊が今回の特集、といえるでしょう。


個人的に今回の特集を購入して良かったと感じたのは、「橿原神宮前」駅にまつわる歴史的経緯の整理です。
奈良県橿原市の橿原神宮は1890年(明治23年)に創建された神社で、その最寄り駅は当初畝傍駅(現在のJR桜井線)のみでしたが、その後現在の近鉄橿原線(当時は大阪電気軌道)、そして吉野線、南大阪線の順番に橿原神宮近辺まで路線網を延ばしてきました。

加えて、現在は廃止となりましたが、吉野線から桜井線へ接続する路線も建設され、またそこに軌間の違い(橿原線は標準軌、その他の各線は狭軌)や、1940(昭和15年)の橿原神宮拡張に伴う線路移設と橿原神宮総合駅(現在の橿原神宮前駅)の開業もあり、歴史的に複雑な経緯がありました。


今回の特集では、元近鉄社員の武部宏明氏の「大阪阿部野橋駅と橿原神宮前駅の変遷」の項で、この一連の橿原神宮前周辺の経緯が整理されており、意外と複雑な経緯をたどっていることなどが、分かりやすく解説されています。


近年は行けていないのですが、このブログでは毎年の撮り初めとして橿原神宮前駅周辺で近鉄南大阪線の列車を撮影してきています。
(参考)



それだけに、今回特集として「南大阪・吉野線」が単独で取り上げられていることに、嬉しく感じており、早速購入し、読破した次第です。

また特集記事内では、近鉄社員による「南大阪・吉野線の運転体系」と、本線区のダイヤの特徴、特に古市駅での連結・開放等についても、「中の人」による詳細も記されていますので、こちらも冒頭に記した別冊特集と同様、近鉄公式の記事として貴重なものといえます。

以上のように、近鉄南大阪・吉野線が詰まった一冊となった今回の鉄道ピクトリアル。
沿線ファンは勿論、近鉄自体に興味がある方も、狭軌の各線区の魅力を感じ取るという意味で、是非手元に置いておきたい一冊と感じました。


DSC03798-2_R
▲南大阪線・橿原神宮西口〜橿原神宮前間で撮影した「ラビットカー」復刻塗装
(2016年1月2日撮影)
橿原神宮前近辺のお手軽撮影地でもあるこの場所で撮影した写真も、本特集に掲載されていました。
また南大阪・吉野線で撮影した様々な写真も掲載されているので、今後の記録撮影の際にも参考になると感じた特集でありました。

鉄道ピクトリアル2024年7月号「【特集】新快速」を読む

鉄道ジャーナル2024年7月号に関して、ちょっとエネルギーを使って書いてしまったこともあり、こちらの雑誌をご紹介するのがすっかり遅くなってしまいましたが、ご紹介しないわけにもいきません。

先月発売された鉄道雑誌のご紹介で、最後となるのは「鉄道ピクトリアル」。
特集は「新快速」でした。

20240615_214929




京阪神は言うに及ばず、姫路・網干といった兵庫県播磨地域や、滋賀県、そして福井県の敦賀にまでの広汎なエリアで走る「新快速」。

今でこそ京阪神は元より、播磨・近江地区にとっても無くてはならない列車種別であり、特に滋賀県内の琵琶湖線のここ数十年の発展は、「新快速」によってもたらされてきた、と言っても決して過言ではないでしょう。

今号では、その「新快速」について、国鉄時代を中心とした歴史を岩成正和氏が、国鉄時代・JR時代を通じた運転の変遷を寺本光照氏が、また国鉄末期からJR初期にかけて「新快速」に投入された、117系の車両解説を平石大貴氏が執筆した、まさに「新快速」の歴史と車両の詰まった一冊といえます。

特に、岩成正和氏の記事では、JR化後の躍進の影に隠れてあまり見向きがされていないよいうに感じる国鉄時代、そして「新快速」の運行開始までの設備の増強や、当時としては画期的な「ブルーライナー」153系・165系の投入、そして117系投入までといった歴史を丹念に記している点では、一読の価値があるものと感じました。
「どうしようもなかったあの頃、気の遠くなるような労使交渉と東京本社とのお役所交渉を黙々とやっていた誰かがいたはずだ。」(本誌P27)等、今の「新快速」の隆盛の礎を築いた名も無き国鉄社員の方々への敬意が感じられる、とても感銘を受けた記事でした。


折しも、大阪〜神戸間の鉄道開業150年ということから、この「新快速」の特集が組まれたのかも知れませんが、今や貴重な113系横須賀色の「新快速」、そして153系・165系「ブルーライナー」による「新快速」といった、貴重な写真も見ものといえる一冊と感じました。


発売から時間が経ってのご紹介となり恐縮ですが、興味あるかたは是非、入手してみてはいかがでしょうか。


【鉄道友の会】2024年ブルーリボン賞・ローレル賞結果を機関誌「RAIL FAN」より読み解く

先日発表のあった鉄道友の会2024年ブルーリボン賞・ローレル賞。
下記記事でもご紹介したように、ブルーリボン賞は東武鉄道N100系(スペーシアX)、ローレル賞は宇都宮ライトレールHU300形と大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)400系に決定しました。
(参考)


例年、5月下旬に受賞発表⇒6月上旬の機関誌「RAIL FAN」に投票結果等の掲載、という流れですが、今年も同様に、6月上旬発行の「RAIL FAN」に投票結果などが掲載されていました。

本日、この「RAIL FAN」805号が当方宅に到着しましたので、早速投票結果等の分析をしてみたいと尾もいます。

20240604_205641
▲本日到着した鉄道友の会「RAIL FAN」805号。




投票結果は、以下のとおりです。
東武鉄道N100系:1040票
宇都宮ライトレールHU300形:1008票
大阪市高速電気軌道400系:508票
日本貨物鉄道EF510形式300番台:205票
福井鉄道F2000形:178票
西日本旅客鉄道クモハ224形700番代:143票
北海道旅客鉄道737系:126票
東日本旅客鉄道E131系1000代:64票
合計(有効投票総数)3272票

(出典:鉄道友の会「RAIL FAN」805号)


基本的に得票第1位の車両が選定される「ブルーリボン賞」の結果からして、東武鉄道N100系の1位は確実でしたが、注目は第2位の宇都宮ライトレールHU300形との得票差です。
その差32票の僅差でしたので、この程度の差でしたら、ブルーリボン賞がHU300形になっていた可能性も多いにあり得たのではないのでしょうか。

それだけ宇都宮ライトレールに対する会員の注目の高さの証左でもありますが、一方で今回の選考経緯をみましても「選考対象となる車両単体ではなく宇都宮ライトレール全体の評価ではないかとの意見」(RAIL FAN805号P4より引用)や、「車両構造、主要機器について従来からのLRT車両との差異がないのではないかとの意見」(同所より引用)もありましたが、「この車両が与えた多大な社会的インパクトを考えると、車両単体としても都市開発の象徴となって」(同所より引用)いることや、「得票数も考慮」(同所より引用)した結果ローレル賞として選定した、とのことでした。

確かに、宇都宮ライトレールは、その路線自体が久々の完全新設の路面電車であることから、そのインパクトは強烈で、それが投票結果を左右したことは想像に難くありません。
この点、あくまで車両そのものを評価するブルーリボン賞・ローレル賞と若干相容れない部分もあるかも知れませんし、上述の意見はこの部分から出てきたものとも考えられます。

ただ、対象年度に新規投入等がなされた車両が基本的に対象となるブルーリボン賞・ローレル賞でありますので、それが新規開業路線となれば、どこまでが車両側の評価となるのか、切り分けるのは非常に困難といえます。
勿論、宇都宮ライトレールHU300形についても、信用乗車方式の本格採用やクロスシートを主体とした居住性、そして黄色と黒を主体とした、街並みの注目を集めるデザインなど、車両単体としても評価は高いものであったかと思います。
以上のことを踏まえて、ローレル賞として宇都宮ライトレールHU300形を選定したのは、個人的には納得の選定だったかと思います。


一方の大阪メトロ400系ですが、こちらは宇都宮ライトレールHU300形の半数程度の得票であったものの、「強いインパクトを与え」る「注目を浴びる宇宙船を意識させる未来的デザインの前面形状」(同所より引用)により、ローレル賞に選定されたということでした。

得票数だけでみると、ローレル賞に選定されなくともおかしくなかったわけですが、その奇抜なデザイン性が、選考委員から評価を受けたことがよく分かる経緯といえるでしょう。



以上のように、今年(2024年)のブルーリボン賞・ローレル賞の投票結果や選定経緯も明らかになりました。
さて、気が早いのですが、来年のブルーリボン賞・ローレル賞を想像してみますと、「JR東日本E8系(山形新幹線)」「JR西日本273系(やくも)」「阪急2300系(プライベース)」と、ハイレベルな争いが繰り広げられることが予想されます。
来年も是非、会員の一人としてじっくり検討して、2票(一人2票限り、これ以外は無効)を投票したいと思います。



↓↓鉄道系ブログ・ニュースポータルサイト「鉄道コム」はこちらをクリック↓↓
鉄道コム

鉄道ジャーナル2024年7月号を読む(下)根室線部分廃止の記事に抱いた様々な疑問…

こちらの記事で、鉄道ジャーナル2024年7月号について、特集「都市の直通運転」に関連する内容についてご紹介しましたが、この「下」では特集以外の記事のうち、「根室本線部分廃止によるネットワーク分断の問題点」(櫛田泉著、以下「本稿」。)を取り上げたいと思います。

本号の92ページから99ページまでの8ページを費やして記しているこの記事は、今年(2024年)3月31日をもって廃止となった、根室本線・富良野〜新得間(以下、「根室線廃止区間」。)について、廃止によるネットワーク機能の喪失による問題点を記した記事となっています。

しかし、読み進めるにつれて、何だか私のような素人であっても、色々を疑問を抱かずにはいられませんでした。
またこういった疑問だらけの記事を掲載した「鉄道ジャーナル」の意図にも疑問を感じましたので、以下で書き綴ってみたいと思います。
以下では、本稿の記事を「」内で引用し、()内に引用元であるページ及びブロック(左右)を記しています。なお引用元はいずれも鉄道ジャーナル2024年7月号となります。
また、必要に応じて当ブログの過去記事を引用していますが、これらの過去記事には各事業者の公式Webサイトの発表等へのリンクを記載していますので、公式発表を確認したい際には参考にしてください。

DSC06371_R
▲根室本線・山部駅(2016年7月、管理人撮影)




【1】「ドライバー不足」に対する疑問
本稿では、「ドライバー不足」という語句が合計で8回(※)出てきます。
(※)P92左(2ヶ所)、P93左、P95右、P96左(2ヶ所)、P96右、P99右

趣旨としては、「ドライバー不足問題が深刻化している中での北海道での相次ぐ鉄道廃止は、北海道民の生活と経済を支える上で問題は無いのであろうか」(P92左)、「バスドライバー不足の問題からバスによる地域交通の持続可能性が不透明な状況」(P96 左)等の記述からあるように、ドライバー不足によりバス・トラックが代替輸送を担えず、それにより利用者や物流に影響を及ぼす、よって根室線廃止区間は廃止すべきではなかった、という趣旨のようです。

確かに、バス・トラックドライバーについては、今年4月より時間外労働の上限規制が施行され、それによりドライバーの従事時間を短縮せざるを得なくなるのは事実でありますし、現に運転士不足で減便等の措置を行っているバス事業者の事例も多数見られます。

阪和線の沿線から : 京阪バス・アルピコ交通で都市間高速バス廃止の動き…「直Q京都号(なんば・USJ〜京阪交野市)」「長野〜松本線」が相次いで廃止に
阪和線の沿線から : 【北陸鉄道・富山地鉄】高速バス「富山−金沢線」廃止(2024.3.15限り)運転士不足による都市間高速バスの廃止がまた明らかに。

ただ、もう少し視野を広げてみますと、残業規制に対応できない原因の根幹である「労働力不足」は、何もトラック・バス業界に限った話では無いと考えられます。

現に鉄道業界でも、地方鉄道の中には運転士不足による減便を余儀なくされている事業者の事例も出てきています。
阪和線の沿線から : 【島原鉄道】鉄道運転士の退職に伴い一部減便を実施(2023.10.16〜12.15の平日)

また、規模の大きなJRグループであってもその事情は共通で、JR西日本ではコロナ禍前の2019年より深夜時間帯の列車見直しを実施し、保守作業の働き手不足に対応しようとしています。
阪和線の沿線から : 【JR西日本】深夜帯ダイヤ見直し実施を発表(2021年春実施予定)近畿エリアで10分〜30分の終電繰り上げを実施

以上のように、「2024年問題」でドライバー不足が叫ばれていることから、今後のドライバー確保に懸念があるのは確かですが、一方鉄道事業者の側でも働き手の確保が課題であるのも、これまた確かだといえます。

しかし、本稿では、バス・トラックドライバー不足のみを取り上げており、仮に根室線廃止区間を存続させた場合の鉄道事業者の働き手の確保については、特に言及がないことから、将来的な鉄道要員の確保は問題が無いのか、無いのはどういった理由なのか、といった点が疑問として残っています。

DSC05029_R
▲島原鉄道・島原外港(現・島原港)駅(2016年4月、管理人撮影)



【2】「公費負担」に対する疑問
本稿では、輸送密度が低くとも根室線廃止区間とは違って線区を維持している事例として「JR東日本只見線」(P95左)、「オーストリア」(P97左〜右)を挙げています。

まず、只見線については、以下のように記されています。
「しかし、災害運休でバス代行となり著しく利用者を落としていた路線であっても、鉄道復活とともに利用者をV字回復させた只見線などの事例もあり、プロモーション次第では根室本線を復旧させても十分に伸びしろがあったと言える。」(P94右〜P95左)

只見線の事例では、災害(2011年新潟・福島豪雨)で不通となり、その後復旧を果たした会津川口〜只見間は、民営化直後の1987年年度は184人、災害前直近の2007年度は63人と推移してきましたが、上述の豪雨災害で大幅に減少し、運休時の2022年度は12人を記録しました。
しかし復旧後の2022年度は79人と、確かに復旧前よりも大幅に回復していることが分かります。
(参考)
路線別ご利用状況(1987〜2022年度(5年毎))|JR東日本
路線別ご利用状況(2018〜2022年度)|JR東日本

一方で、輸送密度が上述のとおり非常に小さい只見線を復旧させるにあたっては、福島県が第三種鉄道事業者として鉄道施設の維持管理を行う仕組みで復旧されました。
つまり、沿線住民が(利用の少ない)鉄道路線を維持するために公費(税金)を投入することに合意したからこそ、輸送密度の少ない線区でも維持されている、という事実は現に存在しています。
(参考)
阪和線の沿線から : 【JR東日本】只見線(会津川口〜只見間)の鉄道復旧に関する基本合意書及び覚書を締結

次にオーストリアの事例については、以下のように記されています。
「オーストリアでは鉄道全線の維持が基本的な考え方だ。輸送密度が1500人であれば「極めて高い」、500人でも「中程度」と評価されている。さらに、輸送密度が500〜750人の路線に対してはさらなる潜在需要の獲得を促しており、500人を下回る路線であっても「不定期の利用、観光利用を確認する」という基準が設けられており、鉄道の価値を、潜在需要をどう獲得するのか、という視点で見ている点が特徴だ。」(P97左〜右)

輸送密度が500人を下回る路線でも、路線を維持することが基本的な考え方、と著者は記しているようですが(※)、このオーストリアについては、下記の宇都宮浄人氏による論文によりますと、やはり国や地方自治体による財政支援により成り立っていることが分かります。
「オーストリアにおける地域鉄道の財政支援構造」(交通学研究第62号・宇都宮浄人)
結局、輸送密度が低い鉄道を維持していくためには、当該路線の収入だけでは勿論運営費用を賄うことができず、国や地方自治体の公費(税金)を投じる必要があります。

一方、公費(税金)を投じることは即ち、沿線住民や国民の同意が必要であることは言うまでもありませんが、そういった公費負担に対する議論が本稿では全くなされないまま、利用者の少ない鉄道を維持するのが当然、という展開に、これまた私は疑問を感じました。
(※)輸送密度500人を下回る線区で、不定期の利用や観光利用を確認し、やはり潜在需要が乏しいと分析された場合はどうなるのか、という点も触れていない点も疑問として残ります。



【3】「代替ルート」に対する疑問
平時の利用者が少ないのにも関わらず、費用負担の議論なしに路線維持を前提に展開されている点で、上述【2】にも共通するのが、この「代替ルート」に関する論点です。

著者は根室線の部分廃止により、「災害普通時に貨物列車や旅客列車の代替ルートを確保できなくなること」(P96左)を根室線を一部廃止することの懸念点の一つとして記しています(P96左)。

具体的な記述は以下のとおりです。
「石勝線が何らかの原因により不通となった場合は、迂回できるルートがなくなってしまったことから、今後は物理的に貨物列車の運行ができなくなり農産物の出荷自体が困難となることも懸念される。」(P96左)

確かに、新得から札幌方面へ向かう際、これまで富良野経由と新夕張経由と2つのルートがありましたが、今後は新夕張経由のルートしか採ることができなくなりました。

ただ、災害による貨物列車の長期間運休はJR貨物自体も課題と考え、同社では他の事業者との連携による代替輸送体制の構築に力を入れています。

日本通運、JR貨物と「山陽線不通時のトラックによるバックアップ輸送スキーム」を構築 〜BCP対策として災害時の安定した物流サービスを提供〜 | NIPPON EXPRESSホールディングス
災害時の代行輸送力強化に向けた内航船の共同発注について|JR貨物

いくら災害時に鉄道での代替ルートが確保できるとはいっても、平時の利用者が僅少な路線を維持するくらいなら、他の事業者と災害時の代替輸送に関する協力体制を構築しておき、実際に災害による代替輸送が必要な際に協力を求める方が、コスト面はもとより、実現可能性の点でもずっと有利な方法のようにも思えるのですが、そうではなく、あくまで鉄道での迂回でなければならない論調に、疑問を感じたところです。

では仮に、鉄道による「災害不通時の代替ルートの確保」が石勝線・新得〜追分間程度の輸送量で求められるというのであれば、全国にはより輸送量が多い線区は数多く存在しており、それらの線区で全て「鉄道による迂回ルート」を確保しておかなければならない、ということにもなります。

典型的な例を一つ挙げるとなれば、青函トンネル(木古内〜奥津軽いまべつ)が考えられますが、著者の理論でいえば、それこそ「第2青函トンネル」を建設して代替ルートを用意する必要がある、ということにもなりかねませんが、このあたりを著者はどう考えているのか、疑問であります。

なお、著者は、以下の引用のように、北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線(北見〜池田)についても、迂回ルート確保の意見を述べていますが、こちらも同様に、平時はもはや鉄道として維持するだけの輸送量が残っていない路線を、迂回ルートとして維持するのであれば、その維持費用の問題は避けて通れないはずが、その点が全く触れられていないのは、やはり疑問であります。
「2006年までは北見〜池田間に北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線があった。この路線を経由すれば池田まで140.0kmの距離であったが、これが網走、釧路経由となると池田まで326.2kmと3倍近くに延び、車両の回送に大きなロスを生じさせてしまうこととなった。災害時のリスク分散の観点からふるさと銀河線を使える状態で整備しておけば、ザ・ロイヤルエクスプラスの乗客は迂回路線経由で鉄道旅を続けることが出来、貨物列車の運転も可能となっていた。」(P96右)

DSC00452
▲北海道新幹線(津軽海峡線)・青函トンネル入口広場(奥津軽いまべつ〜木古内・2023年9月管理人撮影)



【4】「事業者の適切性」に対する疑問

著者は、本稿を通じて「JR北海道が北海道は鉄道運営を担う事業者として適切なのか」(P97右)を、根室線廃止区間の事例を元に、同社(JR北海道)は適切ではない、という意見を述べたいようであります。

ではどこか適切な事業者があるのか、という問いには、著者は「沿線の経営環境がJR北海道以上に恵まれているとは言い難い環境下で、堅調な経営を続けている地方の鉄道事業者」(P98右〜P99左)として「富士急行」(P99左)の名前を具体的に挙げています。

著者によれば、富士急行は「沿線人口は12万人程度であるにも関わらず鉄道ブランドも上手く活用し、株式を東証プライム市場に上場するなど富士急グループ全体で事業部横断的な経営計画を策定し、黒字経営を続けて」(P99左)いるとのことです。

ここで疑問なのが、「富士急行はJR北海道よりも本当に沿線の経営環境が恵まれていないのか?」という点です。

素人的にみても、厳しい気候の中で除雪等の費用も大きい一方、人口希薄な地域を多く抱えてもとより非効率な経営にならざるを得ない地理的構造を抱え、しかも都市間バスやマイカーとの競争に晒され続けているJR北海道よりも、首都圏にほど近い日本を代表する観光地を擁し、国内外からの観光客が潤沢に来訪する富士急行の方が、よっぽど環境が恵まれていると感じるところです。

となると、「沿線環境がJR北海道よりも恵まれていないとは言い難い」(恵まれている)と言えたとしても、「沿線環境がJR北海道よりも恵まれているとは言い難い」(恵まれていない)とは、とても言えないのではないか、と思うわけであります。

勿論、富士急でも観光客に満足して楽しんでもらえるよう、たゆまぬ経営努力を積み重ねていることは確かですし、富士急が豊富な観光資源の上にあぐらをかいているとも、勿論思っていません。

とはいえ、富士急行とJR北海道を比較するのは、上述のとおりあまりにも条件が違いすぎますし、比較の対象としてはもっと環境の近い事業者を挙げるべきなのかも知れませんが、そんな中で富士急行を比較対象として掲げた著者の意図は一体何なのか、これまた疑問に思うわけです。

そもそも、「広大な営業エリア」「厳しい気候」「札幌都市圏への人口集中と他の地域の人口減少」という「北海道」というエリアは、鉄道事業を行うのには厳しい環境ばかりで、たとえどんな事業者であっても相当の苦労が求められるものと、素人的には思うわけですが、そういった点で「適切な事業者」というのは、どういう事業者を想定しているのか、これまた疑問でもあるわけです。
DSC02763_R
▲富士急行(現・富士山麓電気鉄道)河口湖駅(2018年1月、管理人により撮影)




【根本的な疑問…疑問の多い櫛田氏の記事を、なぜ鉄道ジャーナルは掲載したのか?】
以上、櫛田泉氏の記事に対する疑問を、大きく分けて4つの点から述べてみました。

私のような素人から考えても、本稿が色々疑問を突っ込みたい内容の記事であることは、これまで縷々述べてきたとおりです。
ただ、そんな疑問だらけの記事であっても、それを発信すること自体は、表現の自由として批判されることではないと思っています。

勿論、上述のような多くの疑問を抱かざるを得ない文章でありますので、その中身においては、とてもではないが有益な文章ということはできない、という判断を私としてはせざるを得ないわけですが、だからといって、著者の櫛田氏に「こんな文書を書くな」とは言うことはできませんし、言うわけにはいきません。

むしろ今回の疑問は、自身のWebサイトや単著本等、著者本人が全て自らの責任で発信しているわけでなく、「鉄道ジャーナル」という雑誌の一記事として掲載されたことに対してであります。
つまり、このような疑問の多い櫛田氏の記事を、「鉄道ジャーナル」の編集部はどのような意図をもって掲載したのか、というのが、今回のことを通じて私個人としては最も大きな疑問なのであります。


「鉄道ジャーナル」は、表紙に「鉄道の将来を考える専門情報誌」と記されていることから分かるように、鉄道の将来を、専門的に分析し、読者に有益な情報を提供する媒体として、様々なライターが各地の鉄道事情を取材し、分析し、記事化している雑誌であると、私自身は認識しています。

このブログでも、「鉄道ジャーナル」自体をこれまでこのブログで多数ご紹介しており、それぞれの特集記事についても、基本的に肯定的な感想を記してきました。

それはいずれも、編集部が、テーマに則したライターに記事執筆を依頼し、それを受けたライターが読者にとって有益となる質の記事を執筆する、いわば「編集部」と「ライター」の二人三脚で、「鉄道の将来を考える専門情報誌」としての看板を保ってきたからである、と理解しています。

それだけに、今回、このような疑問の多い櫛田氏の記事が掲載されたことに対して、「鉄道ジャーナル」編集部はどういった意図で櫛田氏の執筆依頼、記事掲載を決断したのか、というのが、今回の最も大きな疑問なのであります。


正直、これだけ素人目にも疑問が多い記事を記す櫛田氏を選ぶくらいなら、他にもっと適切なライターは沢山いるのではないか、と思うわけです。
さらに言えば、これだけ突っ込みどころの多い記事でも鉄道ジャーナルに掲載できるのであれば、「自分の記事でも十分掲載できる水準ではないのか?」と思われる方も出てくるのではないか、と思ったりするわけですが、果たして鉄道ジャーナルの編集部は掲載ライターの依頼について、どう考えているか、疑問であります。

この櫛田氏の記事に対しては、SNS上でも色々な意見が出ているようですが、当ブログでは、これまでも「鉄道ジャーナル」の記事をご紹介してきたこともあり、自分自身が感じた「記事」と「編集部」に対する疑問をまとめてみようと思い、今回この記事を記してみました。

長々とまとまりのない文章となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

これからも、引き続き「櫛田泉」氏の名前を「鉄道ジャーナル」上で見ることとなるのか、はたまたそうではないのか。
編集部にも寄せられたであろう意見も踏まえて、今後「鉄道ジャーナル」がどのように判断するのか、個人的に注目していきたいと思います。



↓↓鉄道系ブログ・ニュースポータルサイト「鉄道コム」はこちらをクリック↓↓
鉄道コム

鉄道ジャーナル2024年7月号を読む(上)「【特集】都市の直通運転」

こちらの記事でもご紹介したように、この5月に発売された鉄道雑誌を3冊購入し、読み終わった順に当ブログでご紹介してます。

続いてご紹介するのは、鉄道ジャーナル2024年7月号 特集「都市の直通運転」です。
DSC_0000_BURST20240525195309232


今回取り上げられた「直通運転」は、大阪や東京で実施されている大手・準大手事業者どうしの直通運転をターゲットに、その歴史や現状が紹介されています。

関西地区の事例としては、
・北大阪急行 地元待望の箕面延伸開業(鶴通孝)
・近鉄特急、夢洲へ Osaka Metroへの乗り入れ構想(鶴通孝)
・15周年を迎えた阪神なんば線(伊原薫)
(カッコ内は著者名、敬称略。いずれも本号目次より引用)
が挙げられます。

また関東地区の事例としては、
・東急を中核とする首都圏の直通ネットワークの発展(土屋武之)
・相互直通運転 直通車両統一規格の実際(柴田東吾)
・執念の開業から空港アクセスの隆盛まで 浅草線の建設と運転(岩成正和)
(カッコ内は著者名、敬称略。いずれも本号目次より引用)
となっています。

個人的には、「阪神なんば線」(伊原薫氏)、「都営浅草線」(岩成正和氏)の特集記事が、その建設に至るまでの歴史を丹念に説明しているところが、大変参考になりました。

「阪神なんば線」は、かつての「伝法線」をはしりに「西大阪線」と後年改称されましたが、終点の西九条駅のターミナル機能の薄さもあり、長年阪神の支線としての認識が強いように感じていました。

しかしその位置づけを大いに変え、今や神戸と奈良を結ぶ大動脈となった「阪神なんば線」。
そのインパクトは、本稿でも「進学先の選択肢を増」やし、「人々の人生をも変えた」(いずれも本号P66より引用)と著者がまとめていることからも、私の持っている感覚と軌を一にしていると感じました。


そしてもう一つの「都営浅草線」は、著者自身が東京都職員であることもあり、東京都(市)の都市交通のはしりを、それこそ「都営地下鉄前史」(本号P68より引用)と、ページを割いて丹念に説明しているところが、大変参考になりました。

当ブログ記事を書くにあたり、改めてページ数を確認したところ、16ページ中着工までに費やしたページが7ページ半とほぼ半分を費やしているところから、「浅草線」のみならず、「東京都営地下鉄 着工までの歴史」というサブタイトルでも全く問題ないくらいに網羅網羅された内容となっていました。

関西地区で生まれ、育った私にとっては、東京に同じ地下鉄が「営団」と「都営」の両方が存在し、そして「都営」よりも「営団」の方がずっと規模が大きいことに、大いなる違和感を抱いていました。
こちら大阪では、大阪市営地下鉄が地下鉄路線を一手に掌握していたので、地下鉄=公営単独という前提から考えると、「どうして都営はこんなに少ないのか」と不思議にも思っていました。

大人になった今は、そのあたりの事情は粗方理解していた「つもり」でしたが、今回改めて岩成正和さんの記事を読むと、「どうして都営地下鉄がこんなに少ないのか」という理由が理解できたので、本当に有益に感じました。


「直通車両統一規格の実際」(柴田東吾氏)では、東京メトロ千代田線と、同線に相互直通運転を行う小田急電鉄及びJR東日本(←国鉄)の、直通車両を用意するに当たり、様々な実務面(覚書、保守、仕様etc)から、直通車両の「特別な」点を網羅している点でも、読みごたえのある内容でありました。

本稿では、千代田線を中心とした内容ではありますが、相互直通運転を実施している事業者では、多少の差はあれど、どれも相互直通運転を実施するための実務を、実際の車両設計に落とし込む点で各事業者が苦心しているのだな、とういことを改めて実感しました。


「北大阪急行 地元待望の箕面延伸開業」(鶴通孝氏)では、開業間もない北急・千里中央〜箕面萱野について、著者が実際に乗車して、延伸開業区間の街の特徴(元々市街地が形成されていた点、箕面市自体に高層建築が少ない点)や、延伸開業区間のスキーム(箕面市内が軌道法に準拠している)など、私自身も実際に乗車したとは言え、様々な点を見逃していたことを改めて痛感し、著者の洞察の深さを実感した次第でした。

以上、特集記事の概要をかいつまんでご紹介しましたが、いずれも読みごたえ、学びになる内容であると感じました。



…と、いつもの雑誌紹介ですと、これくらいの内容やタッチで終わるものなのですが、今回の「鉄道ジャーナル」では、いつもどおりのポジティブな評価がすんなりとはできない、それくらい目を覆いたくなる記事がありましたので、そちらにも触れないわけにはいきません。

こちらについては、改めてのブログ記事でご紹介したいと思いますので、ひとまず「特集」記事のご紹介は以上とし、続きは改めてブログにアップする「(下)」記事でご紹介したいと思います。




↓↓鉄道系ブログ・ニュースポータルサイト「鉄道コム」はこちらをクリック↓↓
鉄道コム

鉄道ダイヤ情報2024年7月号【特集】南海電気鉄道を読む

今月21日に発売された鉄道雑誌では、関西地区の鉄道を取り上げた特集が多かったので、都合3種類(鉄道ダイヤ情報、鉄道ジャーナル、鉄道ピクトリアル)を購入しました。
これだけまとめて購入したのは、久々だったと思います。
DSC_0003_BURST20240522203902279


ボリュームも相当ありますので、読み終わった順にご紹介していきたいと思います。

まずは「鉄道ダイヤ情報」。
今月の特集は我が地元、「南海電気鉄道」です。
20240524_230706


鉄道ダイヤ情報は、「乗るたのしみ・撮るたのしみ応援マガジン」のキャッチフレーズ(同書表紙より引用)と、いわゆる「撮り鉄」向けの要素が強い雑誌で、一昔前までは車両メーカーから鉄道事業者へ新製車両を輸送する「甲種車両輸送」の予定を掲載していたのは、記憶に新しいところです。
(参考)



今回の南海電鉄の特集でも、撮影に役立つ情報として、同社の車両ダイジェストガイドで、泉北高速鉄道を含めた車両をカバーしていますが、それ以上に読み物としての中身も充実しているな、と感じたのが、今号特集を読み通して抱いた感想です。

伊原薫氏による南海線の概説と加太線の歴史の詳説、栗原景氏による高野線の概説と、同線を通しで運転する「大運転」急行列車の乗車記など、沿線ファンは勿論、日頃南海電鉄に馴染みのないファンにとっても、両線の魅力が分かる構成となっています。


そして、当ブログで特に推したいのが、土屋武之氏による「泉北高速鉄道とは、どんな鉄道か」
当ブログの読者にとっては、南海電鉄と泉北高速鉄道とのつながりは、十分理解いただけていると思うのですが、関西地区外のファンにとっては、金色の「泉北ライナー」では知ってはいるものの、それ以上に深く認知されているのか、とも言えないとも限らない「泉北高速鉄道」。

この特集記事では、わずか4ページではありますが、泉北高速鉄道の歴史や現行車両の紹介、そして現行ダイヤにおける種別の解説と、限られた紙幅で、泉北高速鉄道の概要をコンパクトにまとめられています。

下記記事でご紹介したように、この泉北高速鉄道は、2025年度の早期に南海電鉄との経営統合が予定されており、「泉北高速鉄道」としての社名は消滅することが予定されています。
(参考)


今回の特集は、もしかすると「泉北高速鉄道」という社名が特集のタイトルとして飾るのが最後かも知れません。
そういう意味でも、泉北高速鉄道ファンにとっても是非購入して残しておきたい一冊でありましょう。



冒頭に記したように、この「鉄道ダイヤ情報」は、いわゆる「撮り鉄」をメインターゲットとした雑誌といえますが、今回の特集で掲載されている写真も、ファンが難なく撮影できる場所から撮影したものを掲載しているのにも、気がつきました。

どんな場所から撮影しているかは、是非本書を手に取って確かめていただければと思うのですが、当ブログでも過去に紹介した撮影地の写真も少なからず見つけることができました。

「あ、ここで撮影したことあるわ!!」とページをめくりながら頷いたり、一方で「こんな所でもこんな構図で撮影できるんや!」と、今後のブログ素材の撮影でも活用できる、有意義な一冊であると感じました。

鉄道ダイヤ情報 2024年 07月号 [雑誌]
鉄道ダイヤ情報編集部
交通新聞社
2024-05-21



鉄道ダイヤ情報2024年7月号【南海電気鉄道】
鉄道ダイヤ情報2024年7月号【南海電気鉄道】



↓↓鉄道系ブログ・ニュースポータルサイト「鉄道コム」はこちらをクリック↓↓
鉄道コム
当ブログのTwitterアカウント
ブログ「阪和線の沿線から」のツイッターアカウントです。更新情報の通知やコメントの受付などはこちらのアカウントをフォローして下さい。
記事検索
「鉄道コム」登録ブログはこちらをクリック
鉄道コム
Archives
Categories
にほんブログ村
PVアクセスランキング にほんブログ村
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

  • ライブドアブログ